映画「赤い風船」~心のつながりと自分の居場所~
1956年のフランス映画(監督:アルベール・ラモリス)で、パリのメニルモンタンを舞台にした少年と風船のやりとりを描いた短編作品を観た
当時の様々な映画賞に輝き世代を超えて愛されている映画とのこと
セリフが少なく、でも登場人物の動きや表情、街の風景から語り掛けられる様々なメッセージが心にグッと響いてくる作品だ
まだカラーの映像も普及していなかった時代でありながらも、鮮やかな風船の赤、青、緑・・・が、モノクロに近い路面や建物の中で彩を与えていた
主人公の少年が鮮やかな赤い風船が木に括り付けられているのを見つけて手に取り、まるで友達と会話をしているかのようなやり取りがされていくが、周りの人、学校の先生やクラスメート、そして母親はどことなくイラついて平穏ではない様子
そのような作品を観ながら、「いったい当時のフランスはどういう時代だったのか」が気になり観終わった後調べてみた。
1956年のフランスは、フランス保護領モロッコからフランスが撤退し、チュニジアもフランスから独立。
インド洋と地中海を結ぶスエズ運河を国有化するとエジプトが宣言し、反発したイギリス・フランス・イスラエルが武力行使に出て、第二次中東戦争が勃発。
更にはフランスの故ギ・モレ首相が英国に対し、英仏両国の合併を提案していたことが発覚するなど…
国益をかけた国対国の衝突が激しく繰り広げられており、誰が仲間で誰が敵なのか、刻一刻と移り変わってゆく時代だったよう
そのような時代の中で、自分の素直な気持ちで接することができ、心を許せる友、安心できる居場所を求める国民の感情が主人公の少年を通して映し出されていたのではと思った
特に印象的だったのは、少年が持つ赤い風船を奪おうとクラスメートが一斉に少年を追い回していたが、赤い風船を奪ったあと、その風船に石を投げつけて割ってしまおうとする子たちと、それを阻止しようとする子たちが入り交ざって騒々しい状態になっているシーンだ
国益や精神の自由を求めていながらも、その考え方や行動が人それぞれバラバラであり、まとめることができない当時のフランスの状態を表しているようだ
少年が赤い風船と仲良さげに一緒に歩いているときのシーンが、パリの経済発展による豊かさを映し出す大通りの車、馬車、ロードバイクや建造物に囲まれている一方で、赤い風船がクラスメートに奪われようとする危機感溢れるときのシーンが、路地裏の狭い通路で、貧しそうな老人が一人歩いているというコントラストも注目したい点だった
まさに経済成長を遂げようとしている国の光と影
そして、ラストのシーン
唯一無二と言っていい、心を通わす友人である赤い風船を失った少年に無数の色とりどりの風船が集まり、囲まれ、少年はその風船たちと一緒に空へと飛び立ってゆく・・・
苦難を乗り越え、これまでにないたくさんの仲間とともに自由を求めて動き出す
どんな場所にたどり着き、どれくらいの数の風船とこれから過ごしていくかは分からないが、新たな一歩を踏み出した少年は笑顔に満ち溢れていた
時代は移りゆき、その趨勢によって人々の生活や感情は大きく揺れ動く
誰もがその時代や周囲の人間関係の影響を大いに受けもがきながらも、常に心のどこかで平穏を求めている
一人ひとりが自分にとっての赤い風船を見つけられるような、そんな世の中になってほしいと思い、自分ができることから始めていこうと思った
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