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「経営を見る眼」で刺さった矛盾の克服

最近、職場でお金を産み出す話をすることが多い。

お金を産むといえば経営者の視点が参考になりそう。そこで、本書が目に留まったので読んでみた。「経営を見る眼-日々の仕事の意味を知るための経営入門-伊丹敬之」。著者は経営学者の方。

仕事で金を生み出すとはどういうことか

まずは、企業そのものを知ることから本書は始まり、一つ一つ言葉を定義して解説をする構成。

しかし、多くの生身の人間にとっては企業は「労働サービスをカネと引き換えに渡す場所」以上の役割を果たしている。

P.22 経営を見る眼 第一章 働く人と会社  より

例えば上記のように、疑問を投げかけその用語を問う。協働する場の一つに職場があると解説しており、まずはなるほどとなる。

この文章に限らず言語化して自論を解くスタイルは説得力があって読んでいて楽しい。それもあって、一つ一つ納得して読み進めることができた。

カネを生み出すことが大事。じゃあ、企業におけるお金ってなんだろう。それが本書を読み進める中での主題と捉えて読み進めた。

場にはカネと情報と感情が流れている

協働の場に自然と流れるものは「カネ」「情報」「感情」。本書のポイントだ。

例えば、「カネ」と「情報」の流れだけを見ていると「感情」が疎かになる。それぞれ適切な分配が必要でこれはマネジメントの役割だと読み取った。協働の促し方が肝心との指摘。

好きな話は、企業の「本質は技術的変換(p.54)」と定義している点。「カネ」を生み出す(企業価値=利益+人件費)ために進化が必要と。同様に「感情」は顧客や従業員満足。「情報」は技術や顧客情報の蓄積に変換される。

この話より、情報と感情については丁寧に扱ってきたつもりだが、私はカネについては扱いが弱かったと認識することができた。カネを気にする場づくりも必要だし、協働における促しだけでなく、自らの行動も問われそうだ。

※ 株式は「逃げないカネ」として返済催促されない金だと扱う話も興味深い。利益と株式の関係は切っても切れない関係として以後の利益の話にも出てくる。

利益は「お役立ち料」

「利益」についても本書では語られる。

会計の視点から利益を選別した結果残った利益は「お役立ち料」や「社会からのお布施」と捉えている企業もいると。利益を求めるのではなく、結果、利益を得るという順番の話。

経常利益はインプットからアウトプットが埋まった差ということだ。なかなか利益率(ROE)のことを気にすると出てこない言葉であるが、あくまで数字を根拠として見るからそうなるようで面白いなと読み進めた。

会計という写像は、企業の実体のたった一つの真実ではないのである。

経営を見る眼 P.83 利益とは何か

この一文が個人的に刺さる。

本書の企業の定義より明らかだが、カネだけの存在ではない。利益率を気にしすぎるのはプロセスの偏りを意味するということだ。あくまでルールと捉えれば何のための企業なのかが見えてきそうだ。

さて、このように利益が見えてきたところで、自分の立場であるマネジメントではどうすれば良いか。マクロとミクロの視点で経営について後半記載されており、リーダー論と合わせて場づくりを重視したいとより強く思うようになった。

場の定義も最後引用して心に留めておきたい

終章にマネジメントの話があり、場の調整をサッカーとジャズで語られている点は納得どころか同意。普段からサッカーやジャズに例えてマネジメントを捉えているので、腑に落ちるし実際そうだろう。セッションを繰り返す技芸だ。

「場とは、人々がそこに参加し、意識・無意識のうちに相互に観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働きかけ合い、相互に心理的刺激をする、そのプロセスの枠組みのことである」

経営を見る眼 第19章 場のマネジメント 冒頭

このように情報と感情のチャネルとして場はわかりやすいだけに、場づくりの意識はカネの意識を少し遠ざけるなと気づけた。

「カネ」を意識するには、立場によるミクロの振る舞いではなく、株式やお客様との定義から始まるカネの存在をマクロに捉える必要がある。本書タイトルの通りで経営を見る眼が必要なのだろう。

場の舵取りにおいて、管理側面ではマクロが発動され、「カネ」の圧力と論理(本書より、数字という議論の余地のない冷徹さも含む)を意識していきたい。それが企業価値となり、「カネ」を産み出すことになる。

矛盾を克服する

最後の締めより経営を揺れ動きと捉えていることが好きで、中庸を取らずレゾナンス(共鳴)に捉える考え方は、私が参考にしている以下の書籍と似ている点があり、本書締めである矛盾の抱え方にも似ていて頷く。

経営とは縦にも横にも振れ幅がある中で最善を模索する活動なのだろう。なお、本書では、この対策を「着眼両極」+「着手単極」で挑んでいる。足して二で割る妥協ではなく妥当を求めるやり方を目指す。


経営者は矛盾を抱える。矛盾の克服を目指す立場の人に0か1の二択をせまるだけの論理は通用しない。論理破綻することが常で、その常の中で揺れ動く難しい選択肢に立たされる立場なのだろう。

人として一貫性と信頼性を保ちつつ矛盾を克服する思考を持つのは難しく、それが経営視点なのであれば、カネを産み出すのは大変だ。本書を通じて、シンプルに考えつつも思考を単純化しない矛盾の心構えでがんばろうの気持ちになれた。

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