見出し画像

いつまでも女でいよう

読書感想文第二弾。
窪美澄「私は女になりたい」を読んで。
〜一章タイトルのアスチルベの花を添えて〜

主人公は47歳バツイチ、美容皮膚科医の赤澤奈美。美容クリニックの院長として働いている。仕事一筋で生きる彼女のもとに、14歳年下の業平公平が患者としてやってくる。出会いは患者と医師としての関係だったが、しばらくして、病院外で“元患者”になった公平とばったり会ったことで2人の関係が始まる。今まで男性との付き合いで感じて来なかった幸せに溺れる反面、働く女として強く生きようとする奈美の姿に、同じ女性として共感するところがたくさんあり、窪美澄先生に「女性が歳を重ねることとは」という授業を受けたような気もする作品だった。

まず、読後、私はまんまと女にさせられてしまった。
読み進めていくたび、奈美と一緒に私も公平に恋をしていたのだ。
容姿がいいとか収入がいいとかのスペックは一切書かれていない。出てくるところといえば、関西の人に特有の“人を喜ばせたいサービス精神”が旺盛なところやコミュニケーションが上手なところ、逐一LINEで食べたもの見たものを報告してくる人懐っこさがあるところ。
かと思えば職業は誰もが知る有名企業の営業マンだったり、学生時代には1人でバックパッカーをして世界を旅していたりという面も出てくる。実に魅力的。
彼はまさに「全女が本能で好きになるタイプ」の人間だった。
この要素がストーリーが進んでいく中で小出しで出てくる。言葉が砕けると出てくる関西弁も合間って、読み終わる頃には私は完全に公平の虜だった。さすが窪美澄さん…奈美が公平に女にされてしまうように、私もいつの間にか窪美澄さんの表現力に女にされてしまったのだ。

このように序盤でここまで公平にのめりこませた後、中盤では奈美を取り巻く人間環境が一気に崩壊する。元夫やその息子、介護施設にいるアルツハイマーの母親、クリニックのオーナーの佐藤、クリニックの職員、そして公平との関係も終わりを迫られるようになる。今まで主人公が危ういと思いながらも、丁寧に積み続けていた石が全てガラガラと全て崩れていくような展開に、心がズタズタに裂かれていく気持ちだった。同じく公平に恋をし、主人公にかなり感情移入してからのこの展開だったので、しんどくて一旦読む手を止めたほどである。

また奈美の大人な対応の数々もこの作品のポイントだと感じた。アラフィフで仕事一本の彼女はとにかく大人だった。クリニックの職員や公平の元婚約者など、自分より年下の女の若い発言に思うことは色々あるにしろ、それを押さえ込んで大人な発言をするシーンがいくつもあった。その度にまだ小娘の私は「わぁ、大人だ…」と感心し、彼女のファンになっていった。
こうしてだんだん彼女側に立っていくことも大事な要素だった。作中でクリニックの職員が奈美の行動に嫌悪感を示していたように、実際、14歳年下の元患者と恋人になったり、オーナーと関係を持っていたりする奈美を客観的に見たら、「健全ではない!当然の報いだ!」と思ってしまいそうなところではあるので、奈美のファンになることで「奈美さんっ…辛い…泣」と一緒に苦しむことができた。1人の男を好きになっただけなのに…

かつて、好きな小説を2日で読んだことがあった。これは私史上最速だったが、今回は1日で読んでしまった。それくらい公平に夢中になり、奈美に共感し、歳は違えど1人の女としてのめり込んでいた。ページが少なくなっていく虚しさも忘れただひたすらに。
女になりたい。女でいたい。これは女が死ぬまで思うことであると思う。
これを書きながら「こんなおばあさんがこんな真っ赤なの似合うかしら」といって100均でネイルの相談をしてきたおばあちゃんのことを思い出した。確かにあのおばあちゃんも若々しく、生き生きして見えた。80過ぎといっていたが、こんな小娘とネイルの話ができるくらいに心の余裕もあったのだと思う。
若い頃しか女を出してはいけない、そんな気持ちがどこかにあったが、
大事なのは女でいたいという気持ちを忘れないこと。
「美しさは内面から」そんなフレーズをどこかで聞いた気がするが、
全くその通りだ。
年相応なんて言葉はどこかに放り投げ、私は女であり続けたい。
いつまでも恋をしよう。いつまでも綺麗でいよう。
いつまでも女でいよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?