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読書記録 | 再読はまた別の味になる「天の夕顔」の尾を引く読書感

夕顔の花言葉をご存知だろうか。
『はかない恋』『夜の思い出』『魅惑の人』『罪』

作者の中河与一氏は、「天の夕顔」という実にこの花言葉を体現した作品を世に送り出している。

私の通読したのはもうおよそ6年前程に遡る。
その当時は読書に根気が続いていたので、半ば一日で読み終えたのであるが、小説馴れこそしているものの文学馴れしていなかった当時の私でも割と簡単に通読できるという易しさをこの作品は併せ持つ。

当時持っていた現代版のカバーは
読書会のイベントで差し上げたため
ひと昔前の昭和時代のカバーで買い直したもの

とうとう成就することなかった恋に半生を捧げた男の執念の生き様を書ききったこの作品は、当時の男女に強い共感を受け、およそ45万部というベストセラーの記録を持っている上、フランスのアルベール・カミュ他の名だたる作家にも高評価を得たそうである。

しかし当時の文旦では、この正統派文学と時代の流れでエンターテイメント化する大衆文学の間のようなこの作品は冷遇されていたという逸話もある。

私はこの度、明日に控えた読書会の課題作品として再読したのであるが、一線を超えずぎりぎりの線で留まる不倫の恋と主人公の執念の忍耐と心と身体の煩悶凄まじいものを感じながら、あらためて読むと、自然の中で営みを持つ人間の生き方が非常に新鮮に思えるものがあり、その文章一つを取っても素晴らしいものがあった。

そんな彼の生き様の残り滓は、ラストシーンですべて昇華するのであるが、夕顔の咲く今の季節に、涼を取りとりこのストイックな恋愛小説を読んでみるのもいいかもしれない。

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