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TRPGの現在、システム・シナリオのいろいろ/試し読み:『TRPGのデザイン』その1

2023年5月に刊行した『TRPGのデザイン』から、「はじめに」と、「TRPGの現在」「TRPGのシステムいろいろ」「TRPGのシナリオいろいろ」のパートをご紹介します。

本書は、TRPGのビジュアルづくりに役立つ、効果的なデザインのアプローチが学べる一冊。ルールブックやシナリオを創る人、デザインする人、セッション用素材を作る人、キャラクターを描く人などなど、セッションを視覚化して楽しむ人たちに向けた、デザインガイドです。

また、Chapter 3「デザインのアイデア」には、美麗な作品実例+人気サークルやデザイナーなど制作者インタビューが満載。国内のシナリオ・ルールブックに加え、MalströmのMontro氏に未邦訳の海外作品をデザインの観点でレビューしてもらいます。

「TRPG」「マーダーミステリー」などの単語で検索して、このnoteを見つけた方も、こちらのnoteを読んで、『TRPGのデザイン』にご興味が湧いたという場合は、ぜひお手にとってご覧いただけますと嬉しいです。

また、こちらのnoteはシェア大歓迎です。
『TRPGのデザイン』をお持ちでない方も、あなたのTRPGライフにぜひお役立てください。

書誌情報(BNN HP)はこちら。

試し読み:その2「TRPGの遊び方、準備するもの」はこちら。

試し読み:その3「TRPGの用語集」はこちら。

試し読み:その4「マーダーミステリーとは、マーダーミステリーの遊び方、準備するもの」はこちら。

試し読み:その5「マーダーミステリーの用語集」はこちら。


はじめに

本書の「はじめに」ページ(『TRPGのデザイン』より)

TRPGを遊んだことはあるだろうか?

Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』の冒頭でマイクたちがプレイしているのが、王道TRPGの「ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)」だ。舞台は80年代、卓上のフィギュアをコマに、ダイスとルールブックを頼りに進行するアナログなRPG─と聞くと同じ頃登場したコンピュータRPGに取って代わられたのではないかと思う方もあろうが、それらの源流であるTRPGも80年代後半には国内へと普及し、独自のゲーム様式として今も脈々と遊び継がれている。

近年では配信を含むオンラインセッションの盛り上がり、特にテレワークの普及を糧に、ツールも作品も目覚ましい発展を遂げた。それでも変わらぬ一番の特徴は、ゲームマスターもプレイヤーも生身の人間であり、音声やテキストなど“自由な言葉のやりとり”でプレイすることだ。

TRPGは、会話で創り上げる物語であると同時に、遊び手が作り手になる機会でもある。

定型はあるようでなく、技術は開かれており、望めば誰でも作り手になれる舞台で、今まさに、あらゆる物語とさまざまなデザインが生まれている。現地点で切り取って伝えられるのはそのごく一端であるが、本書の役割は、進化するTRPGとデザインへの関心の高まりに応え、創作する人、特にデザインしたい人の手助けとなることだ。

併せて、オンラインセッションが同時期に盛り上がり、花開いたマーダーミステリーゲームも大きく取り上げた。デザインの要点は現代のTRPGに通じるものがある。

これらの非常に魅力的で興味深いジャンルに新たな可能性を見出し、共に未来を切り拓く同志に捧げたい。


TRPGの現在

本書の「TRPGの現在」ページ(『TRPGのデザイン』より)

冒頭でも紹介した『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以降『D&D』とする)は、1974年に発売された世界初のRPGであり、今もなお製品版がアップデートされ続け、世界中で遊ばれている。こうしたテーブルゲームが翻訳・翻案されて入ってきた1980年以降の日本では、すでにD&Dに影響を受けて生まれた『ウルティマ』や『ウィザードリィ』といったファンタジー設定のコンピュータゲームが“RPG”として紹介され、今ほど一般的ではないながらも一部のユーザーの中で遊ばれ始めているところだった。

以降、瞬く間に普及した『ドラゴンクエスト』をはじめとする所謂コンピュータRPG(CRPG)と区別して、「テーブルトークRPG」、略して「TRPG」の呼称が定着していったとされる。英語圏でもTRPG、またはTTRPGと呼称されるが、これは「Table Top Role-Playing Game」の略であり、いずれにしても“テーブルを囲み、会話形式で行うロールプレイングゲーム”の意である。

「ロールプレイ」とは、想像上のキャラクターを演じることだ。剣士や魔法使い、僧侶といった役職に、名前だけでなく自分で創作した人格や自己解釈した設定を付与することで、生き生きと仮想世界に立ち上がらせる。ルールブックではゲームの世界観やゲームシステムが定義されており、物語の設定として用意されるのがシナリオである。それらに基づきゲームマスターやキーパーと呼ばれる進行役がガイドする世界の上で、プレイヤーはそれぞれのキャラクターを動かして、ときに行動の成否をダイスロールに委ねながら、そのキャラクターでしか体験することのできない唯一無二の物語を作り上げていく。

『D&D』で確立されたこのプレイパターン─ゲームマスターが進行し、複数のプレイヤーが個別の役割を演じ、会話や探索や戦闘を通じて独自の物語を紡ぐ─をベースに、あらゆるTRPGが生み出された。

パッケージや書籍、ウェブサイトで公式ルールブックがリリースされると、各システムに紐付くシナリオが続々と創作され、自らプレイするキャラクターのイラストを創作する文化も生まれた。また、ゲームプレイの様子を戯曲形式で書き起こした「リプレイ」を読む楽しみ方や、リプレイ集を原案とした小説が人気となり、『ロードス島戦記』や『ソード・ワールドRPG』はアニメやコミックなどあらゆるメディアに展開をみせ、国産ファンタジー作品の勃興とともにTRPGプレイヤーの増加の一翼を担った。

現在では、実際にテーブルを囲まずともオンラインでプレイする人口が膨らみ、オンラインセッションを前提としたシステムやシナリオも多数生まれている。ゲーム実況の人気も相まって、リプレイ動画やセッション配信でこれまで馴染みのなかった人がTRPGを目にする機会も増え、この人気は今後もさらに高まっていくといえよう。

RPGの王道の世界観といえば、剣と魔法が登場する壮大なファンタジーをまず初めに思い浮かべる方も多いだろう。しかし、どんなゲームにおいてもそうであるようにTRPGでもまたジャンルは多様化し、和製ホラーやSF、近現代を舞台にした謎解き、ただ日常を過ごすものも登場した。

数あるTRPGの一例となるが、日本ではハワード・フィリップス・ラヴクラフトをはじめとする作家らが創作した神話世界をベースにした『クトゥルフ神話TRPG』の人気が高い。『クトゥルフ神話TRPG』は神話生物と呼ばれる仮想の生物が登場するホラーRPGだが、二次創作されたシナリオの中にはそういった生物が登場しない、あるいはホラーではなく喜劇のシナリオもある。しかし、公式ルールブックにおいても「ラヴクラフトのスタイルを踏襲したものでさえあれば、必ずしもクトゥルフ神話の話でなくてもかまわない」(『クトゥルフ神話TRPG』より)とされている。ラヴクラフトの小説がそうであったように、TRPGは今も世界中で人々の想像力を刺激し、自由な発想を肯定し、新しい物語や創作物を生み出す芽となっている。


TRPGのシステムいろいろ

本書の「TRPGのシステムいろいろ」ページ(『TRPGのデザイン』より)

現在遊べるTRPGのゲームシステムの多くは、書籍などのルールブックで礎となる世界観や判定のためのデータが定義されている。遊びたいシナリオが決まっていない場合は、好みの世界観を持つシステムから探すことができる。ここではその一部を紹介する。

神話、ホラー

人知を超えた怪物や超常現象により、人間の恐怖を呼び起こすホラー。小説家H.P.ラヴクラフトらによって紡ぎ出されたクトゥルフ神話を題材に、アメリカのゲーム会社が製作したTRPG『クトゥルフの呼び声(Call of Cthulhu)』(1981年)が現在も改訂を重ねており、国内では第6版の邦訳『クトゥルフ神話TRPG』、第7版『新クトゥルフ神話TRPG』が絶大な人気を誇る。クトゥルフ神話をモチーフにしたTRPGとしては他にも、イギリスの『トレイル・オブ・クトゥルー』、スウェーデンの『Kutulu』などがあり、いずれも邦訳されプレイされている。日本発のホラーTRPGとしては、妖怪や怪異、都市伝説や怪奇現象などさまざまな超常事変を題材とした『エモクロア』、一見すると何の変哲もない世界で、心に秘密を抱えた人物たちが奇妙な怪事件に巻き込まれていく『インセイン』などが挙げられる。

ファンタジー

剣士や魔法使いが登場し、探索をしながらドラゴンなどのモンスターとの戦闘を繰り広げ冒険する、現在のゲーム文化の王道ともいえるファンタジー。TRPGの元祖といえる『D&D』をはじめ、国内では『D&D』を題材にしたリプレイ小説『ロードス島戦記』を発端に、グループSNEが制作した『ソード・ワールドRPG』シリーズが初期のTRPG人気を牽引し、今も広く遊ばれている。『アリアンロッドRPG』『ログ・ホライズンTRPG』など多くのシステムが後に続き、『DARK SOULS TRPG』『OCTOPATH TRAVELER TRPG』などTRPG化されるCRPGも少なくない。さらに、『ウォーハンマーRPG』など王道の世界観から派生したダークファンタジーや、魂を持った人形になって冒険を繰り広げるメルヘンファンタジー『スタリィドール』など、ハードなものから可愛らしいものまでさまざまなテイストが揃っている。

SF

1977年にアメリカで発売された『トラベラー』をはじめ、超未来やパラレルワールドが題材となるSF。サイバーパンク、スチームパンク、ディストピアなどに細分化される。架空の1980年代を舞台に、少年少女となり謎の科学施設「The Loop」が存在する島の謎を解くスウェーデン発の『ザ・ループTRPG』、映画作品を模したフィクションが具現化し、現実を書き換えてしまう現象「虚構侵蝕」に立ち向かう『虚構侵蝕TRPG』、「第四次企業戦争」後の荒廃した「赤の時代」に巨大都市ナイトシティを冒険する『サイバーパンクRED』などがある。

アクション

バトルなどのアクション要素を主軸に据えているジャンル。現代を生きる忍者を題材にした『シノビガミ』、現代社会に潜在する異能力者が活躍する『ダブルクロス』、本格的な銃撃戦と映画さながらのアクションシーンが魅力のガンアクションTRPG『ガンドッグ・リヴァイズド』などがある。アクション×SFやアクション×ホラーなどもあり、天変地異が起きた地球の近未来都市が舞台の『トーキョーN◎VA』は、判定にダイスロールでなくトランプを使い、手札をどのように出すかの判断や駆け引きが楽しめる。

その他

この他にも、人に化ける力や魔法の力を持った動物「変化(へんげ)」になって、どこか懐かしいのどかな田舎町を舞台にほのぼのとした物語が繰り広げられる『ゆうやけこやけ』、プレイヤーの最大人数が2人と限られたバディ探偵モノ『フタリソウサ』、オモテとウラを持つキャラクターが会話と演技で物語を紡ぐ『ストリテラ』など、さまざまなジャンルのTRPGが、国内外のTRPGデザイナーによって次々に生み出されている。また、TRPGを気軽にプレイできるようカードに落とし込んだ『のびのびTRPG』シリーズでは、同じシステムでジャンルを超えた作品展開がなされている。


TRPGのシナリオいろいろ

本書の「TRPGのシナリオいろいろ」ページ(『TRPGのデザイン』より)

TRPGでは、各ゲームシステムに紐付くシナリオを選び、プレイすることになる。ルールブックと一体になってるものもあり、システムの自由度にもよるが、具体的な舞台やストーリーはシナリオで定義される。シナリオにはいくつかの型や特徴があり、ここではその一部を紹介する。

クローズド

クローズドとは、限られた、または閉ざされた空間やエリアが舞台となるシナリオ。扉のない一室、閉鎖された施設、海の上の客船、ホワイトアウトした雪山など、密室または広義の密室状態である。ダンジョンのように限られた範囲を探索するため、「脱出する」など行動の目的もわかりやすく、シンプルなストーリーであることが多い。仮に限られたエリアが舞台であっても、密室ではなくそれなりの移動を伴ったり、順を追い探索範囲が変わる/広がるシナリオは「セミクローズド」、「半クローズド」と呼ばれることがある。

オープン

クローズドとは反対に、広い/開かれた空間やエリアが舞台となるシナリオ。思い思いに動き回れることから攻略手順などの自由度が高く、アドリブの利くストーリーであることが多い。中でも、国や都市の一部を探索できるオープンシナリオは「シティシナリオ」と呼ばれ、交通機関を利用して街を移動し、人に会ったり、図書館で調べ物をしたりといった普段の生活のような選択肢をとりうる。広大なマップを縦横無尽に攻略するとなるとプレイ時間も膨大になることから、範囲を絞った「半シティ、半クローズド」のような設定もある。

ソロ、タイマン

「タイマンシナリオ」や「ソロシナリオ」は、基本的に1人のプレイヤーとGM、またはGMレスでプレイするシナリオを指す。通常のTRPGとは異なり、他のプレイヤーとの交流や協力ができない点が欠点として挙げられることもあるが、キャラクターがシナリオの世界に深く没入できる形式であり、個人に焦点を当て、キャラクターの成長や内面の描写、ストーリー展開により時間を費やすことができる。ソロシナリオはPCが1人で物語を進めていくことが多く、時間や周囲を気にせずプレイしたい人にも向いている。CoCのタイマンシナリオはKPC(KPが作成したキャラクター)とPC(プレイヤーが作成したキャラクター)の関係性を深掘りして2人で物語を進めていく。一対一の環境ではGMがプレイヤーをサポートしやすく、ルールやシステムに慣れることができ、スケジュール調整も比較的容易になるため、初心者やグループでのプレイに抵抗がある人にも向いている。

キャンペーン

キャンペーンシナリオは、いくつかのエピソードが連なり最終的に完結する長期的な物語を、複数のセッションにわたって遊ぶ形式をとる。テンポよく短期間で終わるものから一年を超える長期にわたるものまで幅広く、キャラクターはエピソードごとに経験を積み、成長していく。キャンペーンシナリオでは短期的な目標やイベントに加えて、長期的な目標や大きな謎も提示される。同じキャラクターで継続して遊べるので、物語が進むにつれ、キャラクターが手に入れた新たな能力やアイテムを駆使して、より強力な敵や困難な状況に立ち向かうことができる。キャラクターの成長を感じながら、シナリオ全体のテーマや、キャラクター同士の関係性をじっくり味わうことができるのが魅力だ。デメリットは参加者のスケジュール調整が難しいことだが、ストーリーへの深い没入感やキャラクターとの強いつながり、そして協力して難題を解決する達成感を得ることができる。

協力型 / PvPと秘匿HO

「PvP(Player versus Player)」はプレイヤー同士の対決を意味し、反対にプレイヤー同士が協力してゲームのクリアを目指すものを「協力型」と呼ぶ。PvPはPC同士が敵対する組織に所属している、相手を出し抜く必要がある……など、PCの目標が対立したり、争う可能性がある。PCには個別の目標や他者に話してはいけない秘密が与えられることがあり、それらは「秘匿HO(ハンドアウト)」に記載されることが多い。PvP要素の有無はシナリオ概要であらかじめ明記されることもあれば、特定のタイミングまで明かされない場合もある。また、PvP要素を含むシナリオでもプレイヤーの選択によってPvPを回避できる場合もある。なお、TRPGは基本的にはプレイヤーたちが協力してひとつの世界を築くものであり、協力型であろうとPvPであろうと、自分のキャラクターの行動を他のキャラクターが理解できる程度にロールプレイで表現し、物語を進めていくことが求められる。


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