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試し読み:『アニメーションの脚本術』

2022年2月17日刊行の書籍『アニメーションの脚本術 プロから学ぶ、シナリオ制作の手法』。本書は名だたるアニメーション作家の8名に脚本論を伺うインタビュー集です。序文では、アニメーションの脚本制作の流れなどについて、著者の野崎透氏が解説をしています。脚本づくりの基本的なことを抑えたうえで、インタビューが楽しめる構成となっています。今回はその一部をご紹介します。

『アニメーションの脚本術 プロから学ぶ、シナリオ制作の手法』目次

序章 試し読み

 まず問いたい。そもそも脚本に書き方などあるのだろうか?

 本音を言わせてもらえば、答えは「そんなものはない」である。

 筆者は一年前まで某大学の映画学科で脚本の講師を務めていたが、年度初めの講義(内容は、アニメーションを中心にさまざまな作品を観ながら、主に脚本に対する私見を述べるというものだった)で決まって学生に言っていたのも「この講義では脚本の書き方を教えません。もしそんなものがあるのなら、僕たちの方で教えてもらいたいくらいです」という言葉であった。

 極論と思われるかもしれないが、もし脚本に求められるのがそれまで作られたことのなかったような物語や世界、人物像だとすると、そもそも書き方や作り方があるというのはおかしいし、ある方法論に従って脚本を書くという考え方に対して否定的になるのはむしろ当然ということになるだろう。もちろん、現実問題として創作といっても常に新しい表現を創造できるわけではないし、新作に求められるのもほとんどは過去の成功体験──つまり、ヒットした作品の内容──を多かれ少なかれ踏襲したもの、というのが実状でもある。

 その場合は、確かに“それまでの脚本がどう作られてきたかというパターン──メソッド”も有効になってくるかもしれない。もし方法論をそうした過去の作品に用いられたパターンの解析とその応用方法だとするのであれば、“脚本の書き方”というものも存在することになるだろう。問題は、ほとんどの場合、そうした方法論で書かれた脚本が結果として新鮮味のないものになってしまうことである。

 脚本を書く際によく見落とされるのが、映像表現ばかりでなく脚本も常に時代の洗礼を受けて変化し続けているという現実である。実際、この10年間を見ても映像表現は驚くほど変化しているし、当然、脚本の書き方、さらに言えば脚本に対する考え方すらも変わってきている。先に「書き方を教えない」と言ったのはそういう現実を前提としているからで、筆者も講義ではやはり“過去の作品で脚本がどのように書かれているか”という一種の方法論は教えるし、その方法論がどのような効果を挙げるかというところも説明する。ただし、それはあくまでも最終的にはその方法論を否定するためであって、講義では同時にそうした方法論が持っているマイナスの面も必ず教えるようにしてきたことだけは述べておきたい。

 これから述べる方法論は、アカデミックに体系化されたものと言うよりは、むしろ実際に作品を制作していく中で用いられるノウハウに近いものである。ただし、そうした方法論は膨大に存在しており、実際に紹介できるのはあくまでもその一部でしかないことを最初に断っておく。

0-1 脚本作成の流れ

まずは映像制作における脚本制作の流れを簡単にまとめてみよう。例えばTVシリーズの場合はおおよそ次のような形となる。

① 企画書→②シリーズ構成→③プロット、もしくは箱書き→④脚本

こうした段階的な過程を踏むのは、映像制作が集団作業によるものだからで、作品のコンセプト作りや脚本制作において監督やプロデューサーといったスタッフの考えも採り入れる必要があると考えられているためである。個人で書く脚本には必要のない流れと言えるかもしれないが、実際は大学の卒業制作脚本でも同様の形式が用いられている。わざわざこうした過程を踏むのは、実際に映画が制作されている流れをトレースすることが必要とされているためではなく、先のような段階を踏んで徐々に具体的な形にしていく方式が脚本を書く上で有効だと考えられているからである。その場合、そうした脚本を作っていく個々の過程においてどのような作業が行われるかを見ることが重要になる。まずはその最も典型的な流れを以下で概観してみることにしよう。

企画書

 映像作品の制作に際し最初に行われるのが企画書の作成である。ただし、企画書の最も重要な役割は<クライアントにその作品がどのような内容であるかを説明すること>であって、脚本とは特に関係ないと言うこともできるかもしれない。実際、ほとんどの作品で企画書を作成するのはプロデューサーや監督であり、脚本家がこの段階で関わることは少ない。書かれる内容も、その企画がどのような顧客を想定しているかや、そうしたターゲットの興味を引くために導入した新しい表現などといった、いわゆる“作品の売り文句”である。

 しかし、そうした企画の内容を考えるためには、<その作品で何を作りたいのか>、<今の時代に作らなければならないのはどんな作品なのか>といった議論が必要であり、そこから生まれてくる“作品のコンセプト”はその後に制作される脚本にとってもゴールになるものである。クライアントを全く考えなくてもいい大学や専門学校でも必ず企画書を書かせるのは、そうしたゴールやコンセプトが脚本を書く上で何よりも重要だと考えられているからであろう。

 では、具体的にどのようにして企画書を書いたらいいのかを簡単に見てみよう。ここでは形式的に企画書と言っているが、これは“企画案を考える”と置き換えても構わない。

 企画書を書く場合、まずテーマを決め、次に企画意図、そして最後に簡単な作品内容を書くというのが基本的な流れだが、これはあくまでも一つの形式であって必ずしも墨守する必要はない。むしろ、最も重要なのは作品の内容であり、企画書を書く際もまずは自分が作りたいと思っていることを優先すべきである。さらに言えば、その内容も物語にこだわる必要はなく、もし書きたいと思っているものが人物や世界観なのであればそこに重点を置き、物語は必要最低限にまとめる形でも構わない。その場合、企画書も《世界観(作品世界)》《人物》《物語》と分けて書くと考えやすいだろう。とにかく企画書を書く、あるいは考える時に何よりも重要なのは、自分が映像作品として何を表現したいかというところを相手に伝わるように書くことである。

 また、企画書に関して、よく“3分で読めるように短くまとめなければならない”“A4で2枚を超えるような企画書は誰も読まない”と言われるが、これに関しては一切無視して構わない。もし自分の意図を伝えるのにある程度の分量が必要だと考えるのであれば遠慮なく長い文章で書けばいいし、そんなに必要ないのであれば簡単に“こういう物語”と一言でまとめてもいい。例えば、かつて筆者が参加した黒澤明が残した原案をアニメーションで映画化するという企画の際に見た企画書には、ほとんどプロットと言ってもいいくらいしっかりと物語が書き込まれていたし、当然分量も10分やそこらで読めるものではなかった。

 もちろん、その作品で何を表現したいのかというポイントに関しては可能な限り簡潔に書いた方がいいかもしれないが、慣れたライターでも要点を押さえた文章を書くのは簡単なことではないことを考えると、特にこれから脚本を学びたいというような人はとにかく書きたいことは全部書くべきである。最も大切なのは、その作品で何をやりたいのかを伝えることなのだ。

・・・・(続きは本書へ)

1章 監督・プロデューサーインタビュー 紹介

アニメーションの脚本は脚本家独りの手で書かれるものではなく、監督やプロデューサーなどスタッフともに作り上げるのが一般的な形です。この章では日本のアニメーション界を代表する押井守監督、片渕須直監督、プロデューサーの丸山正雄氏のインタビューを収録しています。その一部を紹介します。

押井守監督インタビューより抜粋
丸山正雄氏インタビューより抜粋

押井守監督、片渕須直監督、丸山正雄氏には、ご自身が関わられた作品でどのように脚本を書かれていたのか、また脚本で重視したいポイントや制作現場のことなど、様々なお話を伺いました。

2章 脚本家インタビュー 紹介

続く2章では、現在さまざまな作品で活躍中の5名の脚本家の皆さんにお話を伺っています。日常ものからSF・ファンタジー作品まで、皆さんの手がけられるジャンルは多種多様。また作品が映画なのかTVシリーズなのか、原作物なのかオリジナルなのかにもよって、ポイントは変わってきます。

大河内一楼氏インタビューより抜粋
岡田麿里氏インタビューより抜粋
岸本卓氏インタビューより抜粋
加藤陽一氏インタビューより抜粋
花田十輝氏インタビューより抜粋

本書は、出自や脚本づくりに対する考え方が異なる皆さんのお話を伺える、とても幅広い内容となっています。現場や作品によって、求められるシナリオは千差万別。インタビューを通じて、その視点の違いをぜひお楽しみください。

また、巻末には推薦作品リストを収録しています。押井守監督、丸山正雄氏、岡田麿里氏、岸本卓氏、加藤陽一氏、花田十輝氏におすすめの作品をコメントと合わせて教えて頂きました。ファンの方や、脚本を学ぶうえで参考にしたい方は必見の内容です。
本書がシナリオライターを目指す方や現場で制作に携わる方々へ役立つものになることを願っています。

アニメーションの脚本術 プロから学ぶ、シナリオ制作の手法
現在、全国の書店やネット書店などで好評発売中です。
*BNNオンラインストアでご購入をいただくと、本書未収録のコラムを掲載したペーパー(ペライチ)をおまけとしてお付けいたします。著者の野崎さんに、脚本を書かれたTVアニメ『ガサラキ』『ウィッチハンターロビン』に関して語って頂いていますので、こちらもぜひお楽しみください。(特典はなくなり次第終了します)
BNNオンラインストアでのご購入はこちらから
【書籍情報】
著者:野崎透
ISBN:978-4-8025-1218-3
定価:本体2,000円+税
仕様:四六判/352ページ
発売日:2022年02月17日

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