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誰もやっていない事業をどう評価するか

競合他社との差別化を求めていくと、あるとき、誰もやっていない事業案にたどり着く。たとえば新しいカフェの事業案を考えている中で、デカフェの飲み物だけを扱うカフェインレス・カフェなどのアイデアがでてくるようなケースだ。たしかに、デカフェのコーヒーを扱うお店はあるが、それに特化したものは見たことがない。

ここで、「よし、行ける!」と判断するのは早計だ。やっていないというのは、「誰も思いついていない」という場合よりも、「無理筋なので誰もやっていない」という場合が圧倒的に多いからだ。

カフェインレス・カフェの例でいえば、まず市場が狭すぎる。たしかに、昨今、デカフェを好む人は多いが、多数ということではない。ターゲットをそこに絞り込むには躊躇する市場サイズであろう。大都市であればかろうじて商圏人口が確保できるかもしれないが、すこしでも郊外に行くと難しそうだ。

それから、専門店でなければならない理由も見当たらない。実は、少数派であっても多数の行動を変える例は知られている。たとえば、ビーガンレストランは少なくないが、それは一人でもビーガンがいると、グループはそうしたレストランを選ばなくてはならなくなるからだ。これは、ハラル対応も同じだ。アメリカにおけるイスラム教徒の比率は2%だが、ニューヨークにはハラル料理店が多く存在する。

しかし、そうした少数派による選択の影響は、カフェでは起こりにくいかもしれない。食事とは違って飲み物は、ひとりひとり個別に注文してシェアすることはないし、調理上のコンタミの問題も起こりにくい。だから、デカフェ専門でなくてもいい。

メニュー開発上の問題もあげられるだろう。カフェインレスの飲み物のバラエティは、もちろん制約される。種類が少ないとそれだけ、飽きられる可能性も高い。できない理由を上げ始めると、どんどんあげられそうだ。

もちろん、やってみなければわからない部分はある。多くの人が反対したがやってみたら成功したという事業例は、枚挙にいとまがない。ポカリスエットは、医者が水分補給のために点滴を飲むのを見て「飲む点滴液」として着想されたが、誰もが失敗すると思ったし、消費者調査をしてもそうだった。「こんな商品、誰も買わない」、これが業界のコンセンサスだった。

しかし、3000万本もの試飲缶を配布するなどして、消費者の認知を変え、定番品として定着させてしまった。こうした新しい可能性について、私たちは常に謙虚でなければならない。

それでもやはり、「誰もやっていない」というときに、その背景を考えることは重要だ。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

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