楽園-Eの物語-祭りの前夜
翌日セランとルージュサンは、山の麓から沸き出す温泉で、ゆっくりと沐浴した。
ドニの予想通り山ほど集まったご馳走を、二人で難なく平らげると、もうすることは無か った。
セランが借りている部屋からルージュサンが出ようとする。
その背中にはいつもの、力が無かった。
「ルージュ」
セランが後ろから、柔らかく両腕を回した。
「愛のままに生きられる幸せを、そのまま貴女に伝えられたらいいのに」
ルージュサンの肩に、セランが顎を乗せる。
「あの子達は大丈夫。思い浮かべて。フィオーレをフレイアをユリアをナザルをドラをアンをローシェンナを。そして他の沢山の素敵な人達を。皆、愛してくれている。それでも心配なのは親の情だよ。だから辛いって言っていい。会いたいって言っていい。自分でしたかったことだからって、我慢する必要なんて全然無いんだ。君といるって決めたのは僕で、今、最高に幸せなんだから」
セランの腕に力がこもる。
ルージュサンは泣き言を口にはしなかった。
ただ暫く、抱擁に体を預けていた。