楽園-Eの物語-神との会話
四日目を迎え、ルージュサンは意識が朦朧としてきた。
不眠不休で食べ物もない。
息継ぎの時に、水を口にするだけだ。
目も閉じ、全ての力を歌に注ぎ込んでいる。
止まない風はきっと、この声をセランに聞かせはしない。
それでも、止めるわけにはいかなかった。
時折、ふうっ、と、頭に空白が出来る。
そこに何かが話しかけてきた。
―何故、ここに来た―
―夫が『神の子』の役目をするからです―
―あれは『神の子』にしては、随分と規格外だ―
ルージュサンの目に映りはしないが、ふわふわと触れる色は優しい。
―本来の『神の子』が、生まれなかったからです。彼の近くにエクリュ風邪が流行らせたのは、貴方ではないのですか?―
―私ではない。けれどもこの地方の何かの力が、及んだのかもしれない。私は山の瘤のようなもので、地続きの山どころか、この山のことさえ分かってはいない。ほんの少し、見えるものと出来ることがあるだけだ・・・・『神の子』は何故、生まれなかったのだろう―
―人は前に進み、広がり、地に蔓延っていく生き物です。人の営みがここだけで満たされていた『全ての村』でさえ、人は外に出ていきました。村が他の国の一部とされ、道も整備されて以降、外との交流は益々盛んになっています。『神の子』の定めもあちこちに散り、狂いが生じているのかと考えています―
―では狂いは、もっと大きくなるのか。ここはどうなる?―
神の色に影が差した。
―人は山を整える、別の方法を探さねばなりません―
―出来るのだろうか―
―そう信じています―
―そうか―
一瞬、神の心が揺らいだ。
その隙間から、蜘蛛の糸ほどのものが漏れだし、ルージュサンに触れた。
―ルージュサン―
神の色が変わった。
―『神の子』の不足分を、歌声で埋めようとしたのだろうが、まだ足りぬ―
―願わくば、私一人で購えることを―
風が、止まった。