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楽園-Eの物語-君の待つ場所

 一行は、エクリュ村の冬着に着替えて、早朝に宿を出た。
 膝上まである長い靴の、脛を幅広の紐で巻き上げ、目深に被ったマントの額と手首、腰にも紐を使う。
「なんて可愛いんだルージュ!まるで土から這い出たみの虫みたいだ!」
 周りの頭を悩ます褒め方をしたセランは、山に入ってその実用性を実感した。
 まだ残る雪や手足を震わせる風に、対抗するにはもってこいだったのだ。
 山に慣れたムンが先頭を歩き、三人がそれに続く。
 村に着いた時には日が暮れていたが、月明かりと雪の反射に、ベージュ色の家々が、浮かび上がって見えた。
《えっ?》
 ムンが呟いた。
《明かりが点いてる》
《俺のとこもだ》
オグがムンの顔を見る。
《まずは俺の家に行こう》
 そう言ったムンの足が速くなる。
 最後は駆け寄る様に、村の端に近い所に建つ家に着いて、その扉を叩いた。
 待つこともなく、その扉が開かれ、飛び付かれたムンがよろけそうになる。
《ドニ。どうしてここにいるんだ。町に行ってろって、あれほど!》
《行けないわよ。あたしの居場所はムンの居場所だもの》
《じゃあ、サナも?》
《うん。子供と一緒に村に居る》
《俺、帰る》
 ドニの言葉が終わらぬうちにオグが駆け出す。
《この人達が?》
 セランとルージュサンを見て、ドニが首を傾げる。
《『神の子』は生まれなかった。この人達が一番近い》
《そう。とにかく入って。寒かったでしょう》
 ドニに招き入れられ、三人は靴とマントを取った。
 
 
 
 

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