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「失敗学」に学ぶ

  数年前に購入して、ざっと読んだ後、本だなに並べてあった畑村洋太郎著「失敗を生かす仕事術」を夏の夕暮れの涼しいキャンプ場で読んだ。

 かなり以前に勤めていた会社で、いくつかの失敗が重なり、最終的には自分が身を引く形で職場を去ることとなった。それが、何となくトラウマとなっていて、今、本業+副業という新しいステージへ歩みだしたのだが、同じ失敗に陥るのではないかという不安がよぎることも否めない。そのため、この本を改めて紐解いてみた。

個人の獲得する知識の質と量は失敗経験で決まる

 畑村氏は、「個人の獲得する知識の質と量は失敗経験で決まる」という。新しいことにチャレンジすると、そこには必ず失敗が待っている。そして、そこで経験する痛みや口惜しさが新しい知識を受け入れる素地を作り、さまざまな知識を学び、考えながら、そこで得たものを<普遍的な知識>として吸収して、最終的に現象の真の理解が達成されるという。

 確かに、失敗が重なった職場では、ある意味でチャレンジングな分野で仕事を切り開く仕事であり、メンバーのだれもが経験したことがない仕事であった。また、役職上、私自身が初めて経験する慣れない業務もあった。そこから、いろいろ上手くいかないことも少なくなかった。そして、途中から上司との折り合いが悪くなり、それがさらに失敗を誘発する悪循環にもつながっていった。

 そこから、その職場にいるときから、新しい分野への勉強を始め、さらに心の持ち方という点で、仏教や哲学へも視野がひろがっていった。そうして知識や見識をひろげつつ、畑村氏がいうように、失敗の経験(の総括)と新たな知識を<普遍的な知識>として吸収し、次に活かすことが大事だと痛感した。

定式化=シナリオを作る

 畑村氏によれば、<普遍的な知識化>していくというのは、自分なりの定式化をおこない、それをつかって直面する問題を解決するために、「こうすればいくという」シナリオを作ることである。何か行動する→何らかの制約条件がでて失敗する→そこから「定式化する」→新たな定式に基づいて実践する→また新たな制約条件ができてまた失敗する→また新たに「定式化する」・・・このサイクルを積み上げていくことが大事だということだ。

 この定式化では、知識を一般化しなければ使えない。なんなる、失敗の原因と経過、対策だけでは単なる事例集であり、その失敗から得るべきものを整理し、知識化しなければならない。畑村氏は、知識化の上で、重要なことは「上位概念」へ上ることだという。

 定式化されたものを、現実の新しい問題に応用していくうえでは、定式化された知識にもとづくテンプレートを使う。多くの人は、新しい問題を解決するときに、自分なりのテンプレート(パターン)をあてはめて考えようとする。このテンプレートを多く持っているほど、問題解決にシナリオを作りやすい。こうして今度は、上位概念を下位概念に降ろして問題解決に役立てる。

自分が陥りやすい失敗のパターンを想定しておく

 この定式化は、自分が陥りやすい失敗のパターンを想定することにもつながると畑村氏は指摘する。 

 ハインリッヒの法則では、失敗がある一定の法則で起こる確率現象であることを教えている。<1件の重大災害の陰には29件のかすり傷程度の軽災害があり、300件のひやっとした体験がある>

 これにたいして、3割の冷静さを持って行動し、「自分は失敗するかもしれない」「それによって、すべてを失うこともある危険性」をたえず検討していれば、少なくとも致命的失敗に遭遇することは避けられる。

 そのためには、自分が陥りやすい失敗のパターンを分析し、頭のなかでシュミレートしながら、未来に生じる危険性を予測して行動することが重要だという。

 では、自分が陥りやすい失敗のパターンとは何か、、、ふりかえってみると次の点などがあるだろう

  1. 手順の不順守:それぞれの組織のルール、人々の上限関係、人間関係、手続き等の手続きの順番を間違える、軽視する傾向がある。

  2. 言うべきところで、自分の主張を言うことを必要以上にためらう傾がある(実際には少々言っても咎められないことが多い)

  3. 仕事を抱え込みやすい

 これらの傾向を意識して、言語化しておくだけでも違うだろう。

失敗には階層がある

 畑村氏によれば、失敗の原因を分類してみると、次の10項目に分類できるという。

  1. 未知

  2. 無知

  3. 不注意

  4. 手順の不順守

  5. 誤判断

  6. 調査・検討不足

  7. 制約条件の変化

  8. 企画不良

  9. 価値観不良

  10. 組織運営不良

 このなかで、①は誰もがやったことがない未知の領域で活動するときにおこる失敗である。②~⑥は失敗に結びつく行動をとった個人の責任と考えらるが、⑦~⑩はそれを管理するものに責任を期すべき失敗原因である。

 ある人の失敗が起こった時、現象としては個人の無知や不注意、誤判断によっておこるが、その背景には、未知、制約条件の変化、企画不足、価値観不良、組織運営不要など、個人の努力ではいかんともしがたいもっと重要な問題を含んでいる。

 失敗を誘発する環境を作り上げている管理者の責任は、ときに失敗をおこした当事者よりもはるかに重大である。しかし、おうおうしにて、個人にすべて責任を擦り付けられることがある。

 かなり以前に私に降りかかったケースはまさにそれである。

組織相手にはときに開き直ることも大事

 組織で働いている場合、個人が失敗に巻き込まれることがある。その場合、ときには開き直ることも大事だという。

 ②~⑥の失敗の当事者からすると、①や⑦~⑩の問題を指摘することは、「責任回避」のように思われ、個人の失敗への負い目もあるので、主張することはなかなか難しい立場に陥ることも確かである。また、そこまで冷静に考える余裕がなくなってくるだろう。また、組織の責任者も、ある程度こうした構造は知りつつも、自己保身のために、全ての責任を当事者に押し付けて、切り捨ててくるということも良くあることだ。組織は、そういう恐ろしい側面を持つ。

 しかし、こうした組織で起こる失敗の階層構造を知っておくと、問題が起こる前から、①、②~⑥、⑦~⑩の問題を切り分けて、深刻な失敗が起きないよう、有効な対策を打ち出すことができるだろう。また、そうした切り分けが組織で認識されていれば、失敗の原因を特定の個人にすべて押し付けるという事態が起こりにくい組織文化が生まれるだろう。万が一、自分が②~⑥の当事者になった場合でも、「負い目」なく開き直れるだけの精神的余裕が生まれるだろう。

 この本は、社会人、職業人として一度は読んでおきたい本である。

以上


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