見出し画像

昔、喋れない病気だった②

小学3年生、クラスで"人気者"になった。

ほんの些細なことで、一気に友達が増えた。周りを人に囲まれるようになった。いつも一緒に遊ぶ"グループ"ができた。楽しすぎて先生に叱られることもあった。

そこからは順調だった。

友達といるとき、話せないのがもどかしくて、片言でも喋るようになった。友達は嬉しそうな顔をして私の相手をしてくれた。聞き取りにくても、笑いにしてくれた。

クラスの男子が私の声を聞いて、「お前喋れるなら喋ればいいじゃん」と言われることも増えた。なんだか自分のことを「特別」だとは思わなくなった。

授業中やクラスの大勢の前では無理だった。一度、カルタ大会をしたとき先生が「はい」と呼んで取らなきゃいけないという謎のルールを作った。私が「はい」を言わずに取った。男子中心に猛ブーイングが起こった。先生が隣に来て、私の頭を撫でてくれた。友達が「可哀想だよ!」と叫んでくれた。先生が私に喋るタイミングを与えようとしてくれていたのだろうか。それを憎んだことはなかった。

その先生が翌年転勤することになった。花束を渡して、私の顔を見てじっと待ってくれた。喋れなかった。先生はニコッと笑って去って行った。それはずっと後悔している。

私が喋ったのは小学校6年生の時。しゃかりきな50代のベテランの先生だった。皆の前で発表する機会が与えられた。こういう機会がいつか来るだろうと思っていた。そこで喋らなければならない。プレッシャーだったが、こういう機会がないと一生喋らないだろうなとは気づいていた。

時計が過ぎる。授業が始まってから40分ほどたったと思う。残り10分。空気を最大限に読んだ。喋った。終わった後は、「意外とハスキーだね」とか言われた。それだけだった。残りの小学校人生は「普通」の人として過ごしたと思う。

私は中学受験をして、受かった。小学校のメンバーとはお別れすることになった。これ以上人生で楽しいことはないだろうな、というくらい楽しかった。それは本当にその通りだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?