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香川照之は「願わくは、我に七難八苦を与え給え」と三日月に祈った山中鹿助?

 私の大好きな役者のひとりに、香川照之がいる。
 そして、私の好きな漫画のひとつに、静かなるドンがある。
 今回は、香川照之の役者としての原点となった静かなるドンと、香川照之について語りたいと思う。

 香川照之と言えば、近年で一番有名な役は半沢直樹の大和田常務だと思うが、最近は、昆虫大好きカマキリ先生になって、絵本をつくったり、洋服ブランド立ち上げたり、八面六臂の活躍を活躍をしている。

 昆虫の絵本の読み聞かせをする彼は、目がキラキラとしていて、本当に楽しそうだ。


 彼が俳優になったきっかけは、ADのアルバイトで、俳優はラクそう(これは大きな勘違いだったと後に語っている)だし、親の七光り(父は歌舞伎役者、母は女優)も使えそう、という気軽な気持ちだったらしい。しかし、今では押しも押されぬ実力を身に着けた。

 役作りがどのような背景から生まれるのかを語っているインタビュー
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2015_11/p24-30.pdf

(役作りについて)
テレビや映画に関して言えば,役作りというのは実は何もしてないです。(中略)単純に台本を読んで、その場で起こる一番つらい、こっちに負荷がかかることは何かというのを探すんですよ。(中略)その場で一番つらい、きつい、痛い、我慢できないということを役者が率先してやる。それによって、スタッフがついて来ると思うんですよね。


(大和田常務の土下座シーンについて)
僕の中では,ああいう人というのは,土下座するすると言っておきながらしないんです,絶対に。(中略)一番きついことが何かっていう先ほど申し上げたことと、土下座を絶対しない人がしたらどうなるかという、もしかしたらその2つぐらいであれができているんですよ。

 

 台本を読み、その人物が何を考え、何を感じ、どう動くのかを、自分の中から出していく。自分の中にある感情から答えを積み上げていくから、どの役も香川照之らしさが残り、それが魅力的に感じるのだろう。
 都市銀行の常務(半沢直樹)も、阿片窟の親玉(るろうに剣心)も、奇妙な隣人(クリーピー 偽りの隣人)も、すべて彼の一部なのだ。


 香川照之の、登場人物の感情を考えて演技をするというスタイルは、デビュー直後に出演していた静かなるドンの監督である鹿島勤のコメントを読むと、その時に身についたようだ。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37193


 彼がまだ20代の頃、『静かなるドン』の撮影で100回くらいNGを出したことがあったんです。あいつは東大も出て頭がいいから、頭の中で構築した理屈や哲学で演じようとしていた。人間の感情は理屈ではないんだ、とその演技を全部やめさせるまでに100回くらいかかったのです。


 このNG100回のエピソードを、香川照之は、嬉々として共演した俳優に語りまくっていたらしいので、ドMすぎるだろ...。

 まあ、そもそも東大を卒業している時点で、ドMなんだよ!
私の知り合いの東大卒は、みんなドMだし…。



主演していた静かなるドンのあらすじ
女性下着メーカーに勤める落ちこぼれサラリーマンの近藤静也(香川照之)は、日本最大勢力の暴力団総長の父の死をきっかけに後を継ぎ、サラリーマンと親分の二足のわらじを履くことに。一流の下着デザイナーになりたい、という夢を持ちながらも、ひとたび抗争が起きれば、冷酷な作戦が次々と浮かび殺戮マシーンになってしまう。生まれながらのヤクザとしての血に悩み、血を否定し、同僚の秋野との恋を通じて本当の自分を探していく。


 劇中には、「僕にはヤクザの血が…」という台詞が度々あるのだが、これを「役者の血が…」と言い換えると、両親ともに役者である香川照之にそっくり当てはまる。
 血の縛りという、近藤静也と香川照之の背景が一致することで、物語は絶妙な熱を帯びながら進んでいく。
 この素晴らしいキャスティングをした方に感謝している。これがなければ今の香川照之は恐らく存在しなかったのだから。


 香川照之は、物心つく前に両親が離婚し、歌舞伎役者である父とは絶縁していた。勉学に励みながらも、演じる道に足を踏み入れていく。それ以外の道が沢山あったにも関わらず、彼は血筋をいかせる役者を選択した。
 そして、俳優デビューをきっかけに父に逢いに行ったが、「あなたは息子ではありません。今後あなたとは二度と会わないけれど、そのことをよく心に刻んでおきなさい。」と言われ、突き放される。
 「息子に一人前の人間になって欲しいからあえて突き放した」と父は後に語っているが、父に拒絶された当時の彼の気持ちは想像を絶する…。


 それから数十年。歌舞伎役者の後継ぎになれる可能性がある男の子が自分に生まれたことで、父と和解し、歌舞伎役者の家に生まれた運命として、46歳で歌舞伎の世界に踏み入れていく。俳優として成功しているのにも関わらず、世間から大バッシングを受けながらも、果たすべき責任を果たすことを決意し、選択した。

 日本国憲法では職業選択の自由が保障されており、子供は親の後を継ぐ必要は無い。血に縛られずに自由に生きることもできたのに、彼はそれを選択しなかった。そして自分の子供にも、歌舞伎役者になることを望んだ。
 これは、彼の背負う血のなせる業なのだろうか…?

 かつて自分を完全に拒絶していた歌舞伎の世界を、追い求めていくのは茨の道だ。自ら進んで火中の栗を拾い、キツく苦しい道を進んでいく姿は、三日月に七難八苦を願った戦国武将の山中鹿助のようだ。
 あえて選んだ苦難の道を、心を壊さずに続けられているのは、彼の強さであり、しなやかさだと思う。彼の葛藤は、他人には想像もつかない。これからも健康で、素晴らしい芝居を見せてくれることを、心から願う。


 そんな苦労を表には出さず、今日も彼は、虫を追いかけていたり、弁護士に扮していたりする。
 Eテレの昆虫すごいぜ!での迷台詞、

「俳優生活苦節28年、やっと本当にやりたい仕事ができました!」

 それは思っていても、言っちゃダメー!!!(笑)
 お茶目な面も魅力的な役者である。


 悪役の香川照之は、もちろんそれはそれで大好きではあるのだが、そろそろ、平凡なマイホームパパや、執念に燃える警察官、冷静沈着ながらも情に厚い官僚等の役も観てみたい。そういう善良な役も似合うと私は思う。
 これからも期待しているし、本当に楽しみだ。


 最後にシャニマスのCMで観た香川照之の好きな台詞を

「何かを始めるのに遅すぎることなんてない」



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