薄汚ねぇ青春-とある男子大学生の灰になった友情とクスリに枯れた恋-
*この物語は第三者が当事者から
聞いた目線からの口調で語られる。
登場人物
彼=主人公 エイジ=悪友 エリカ=彼女
主題歌:蝶/BLUEVARY COSMOS
彼は生きるために喉を枯らした。
そうやって今日までの24年間を
生きてきたらしい。
生まれは東京都港区。
生粋の都会ボーイだ。
自慢じゃないけど、親も金持ちで
周りの同級生より良い暮らしをしてきた。
いつも家には売り出されたばかりの
最新式のおもちゃがあったし、
何か欲しいものがあれば簡単に手に入る暮らし
を送っていた。
その流れで慶應の幼稚舎に
入学することになった。
今振り返ってみると
あまり覚えていないのが正直な感想だ。
物心がつく前の出来事だとも言えるだろうか。
でも同じように何一つ苦労することなく
幼少期を過ごして、
そのまま中等部に行くことになる。
中等部で初めて世の中に疑問を持った。
行儀よく過ごすことが良いことなのか。
親の締付けが激しかったのだ。
午後6時までには帰ってくること。
英会話、ピアノの教室に通うこと。
まだまだ書き出せばきりがないが、
書いてしまうと愚痴になってしまうので
辞めておく。
ただ今から言わせれば本当に躾ではなく、
締め付けだった。
その締付けがなんの意味をもたらすのか
わからなくなっていた。
英会話の教室に通う日は通う日は
通っているフリをして、
友達とゲームセンターに行って
遊んだこともしばしばあった。
中学生の年齢ながら毎日に虚無感を
覚えて日々を過ごしていた。
そんな細かなプライドから
髪の毛を伸ばし始めたのはこの頃だった。
こんな生活が高校からエスカレートしていく。
高校に入っても相変わらず
髪の毛は長いままだった。
中学と比べて高校に入ってから
進化したことといえば、
髪の毛に色がついたくらいだった。
高校に入るころには金髪になっていて、
たまに毛先のあたりをピンクにしていた。
そのおかげで親との関係は最悪だった。
ちょうど両親が離婚の調停の
協議中でもあったので、
冷え切った家庭環境の中、
息子の見た目がより一層ムードを
険悪にさせていた。
そんなある頃ちょうど高校一年生で
16歳を迎えたとき、
原付の免許を取りに行った。
別に港区に住んでいて車を運転する
必要などサラサラなかった。
原付ならなおさらだ。
でもその時にバイクにハマっていたので
話は別だった。
何に対してもやるせない気持ちで
生きていた彼にとって、
バイクに熱中したことは奇跡に近かった。
バイクの色、デザイン、音。。。
とどれを取ってもこれだけ
カッコいいものはないというほど、
夢中になっていたらしい。
毎月バイクの雑誌を友達と見合って
話で盛り上がるのが定番だった。
彼にとって忘れられない友達なのが
エイジという名前の友達だ。
エイジは今風に言えば悪友だった。
何をするときもエイジとは一緒で
仲間内にはいつもいた。
そしてエイジはなかなかのワルだった。
正直な話、
彼が髪の毛を伸ばし始めたのは
彼の影響が大きかったらしい。
エイジは今まで箱入り息子で
エリート街道まっしぐらな
中学生だった彼に
芽生えた反抗心と不良の芽を
育てた人物である。
エイジとはゲームセンターで出会い、
出会ったとき同じ中学生なのに、
格好も服装も違うエイジに
衝撃を受けたらしい。
エイジは酒にタバコや
ここじゃ言えないことも
やっているようなヤンチャな
やつだったが、
彼はエイジから酒とセックスを
覚えさせられた。
ただタバコに至っては臭いが
残るため吸うのを控えていた。
そんなある日、彼とエイジは
原付に乗って江ノ島を目指すことになる。
深夜0時を回った頃、僕らは出発した。
東京の夜風はお世辞にも
気持ちが良いとは言えなかったけど、
笑いあって原付に乗っている時間が
幸せだった。
でも悪夢は鎌倉で起こった。
二人が原付で喋りながら運転していたところ、
対向車線からトラックがこっちに
突っ込んできたのだ。
彼は助かったが、
エイジは即死だった。
その後数週間放心状態になったが、
ある時に彼がいつも吸っていた
ピアニッシモというタバコを
他の友達が持っているのを目撃した。
すかさず1本もらって、
思わず吸ってしまった。
悲しいことを忘れるような気がした。
それからずっと今までこのタバコを
吸い続けるようになる。
そのタバコがきっかけで
今の彼を作り出した話がある。
エイジが亡くなって2年後、
彼は大学生になった。
大学生になっても相変わらず
気怠い雰囲気の学校など
行っていなかった。
春の冷たい雨が降れば、
煙草に火をつけて居場所を探していた。
そしてある日、歌舞伎町の路地裏で
煙草を吸っていたとき、
4階建ての汚い雑居ビルから女が出てきた。
黒髪で素朴な格好をしていた彼女は
歌舞伎町が似合わなかった。
煙草を吸っていた彼に彼女は
ライター貸してと話しかけた。
彼女の名前はエリカ。
彼女はそのビルの風俗で勤務を
開始し始めたばかりだった。
そのタバコがきっかけで2人は仲良くなり、
交際に発展する。
仲良くなる中で知ったのは彼女も大学生で
お金のためにやってるということだった。
それから半年が経ち、
お金も溜まったので2人で
一緒に暮らす約束をしたのだった。
そこで彼女は勤めていた勤務先に
辞めるよう告げたのだが、
答えはNG。
今月中に1000万
収めなければ、辞めることはできない
と告げられた。
エリカと彼は自由が手に入ると思い
協力しあって働いた。
ノルマで余っているお金が500万ある。
エリカは風俗で働き、
彼はやったことのないスカウトの仕事をやって
400万と100万で合計1000万を
作り出す予定だった。
彼は慣れない仕事に苦戦した。
ときに同業者の人と喧嘩になったり、
組の人から殴られたりしたときもあった。
エリカの方は休まず働き、400万円を
作り出したらしい。
彼はそれだけを聞いて必死に働き続けた。
何よりエリカを愛していたし、救いたかった。
そして顔を合わせず月末が来た。
彼が稼いだのは100万ピッタリ。
ギリギリ超えたボーダライン。
稼いだばかりの現ナマを持って
エリカの勤務先へ向かった。
お店に辿り着くとそこにいたのは、
変わり果てたエリカの姿だった。
店の支配人は稼ぎ頭だったエリカを
最初から辞めさせる気はなかったのだった。
彼女はシャブを打たれて
見た目もボロボロ
になって腕にはリストカットの跡
だらけだった。
彼は頭が真っ白になって
その場から走り出した。
一晩中酒に溺れて歌舞伎町の路上で
寝ていたところを保護されたらしい。
あれから6年経った。
学校も辞めかけたけど、
結局休学という措置を取った。
今はもう4年になって大学も
卒業しようとしている。
彼は当時の面影がないほど
黒髪ショートの短髪にして、
スーツに見を包んだ就職活動を
終えたところだ。
この話は彼しか誰も知らないが
特別に私に話してくれた。