はかりがたきその平常

 我が母は地味な変人である。奇抜さや珍奇さはないが、毎夜美味ではあるが既存の料理名に当て嵌まらない謎料理をつくるくらいには変人だ。
 40歳過ぎてから免許を取ったり、もうそれなりの齢であるのに生活習慣病関連の薬を服用する必要が一切なかったり。個々の事例に強烈さはないが、総合すると『平凡ではない』となる。
 そんな母を象徴するの今日のエピソード。
 私はスーさん(コーンスネーク)の食餌を解凍する際はいつも専用の器を使用している。100円均一で購入した、長径7cmほどの白いドロップ型の小鉢だ。使用後は人間用の食器と混ざらないよう冷蔵庫の上に置くなどしている。
 今週はその器を洗い終わった後につい台所に放置してしまった。今日の就寝前にやはり片付けなければと思い立ちその器を手に取ったところ、母の入れ歯が入っていた。
 一瞬、思考が停止する。すぐさま強引に再起動をかけ、居間で新聞を読んでいた母に問い合わせる。

「あのお母様、これが私のお皿だってことはご存じ?」
「うん、知ってる。」
「人間用じゃないってこともご存じで?」
「分かってるけど、ちょうど小さくて使いやすいなって思って。」
「おヘビさんのご飯を入れているお皿なのですが、平気でございますの?」
「でも毎回ちゃんと洗ってるんでしょ?」
「確かに実験にも使えるくらい清潔で無菌ですけれど、要はチューチューさんを解凍するのにお使いするお皿でございますのよ?」

 自分を落ち着かせようとしながら丁寧な喋りを意識した結果、煮崩れたお嬢さま口調になってしまった。しかし恐ろしいのは、母に罪悪感も開き直りもなく平常温度だったことである。結局この話は、私はちゃんと器をしまう、母はいつも通り自分の湯呑みで入れ歯を洗うということで落着した。理屈からすれば母は正しいのだろうが……いやはや超しがたい。
 見た目は弥生系の小柄なおばちゃんだが、中身は看過しがたき奇妙なものが詰まっている。


今日の英語:Small bowl

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?