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僅かな呼吸で肺に色彩を与える

 今日は文字通り半ドンであったので、いつかと同じく昼食前に職場近くの寺院を散歩する。
 空は涼しく土には水の気配。散歩するべき素晴らしい季節。

 創建は江戸年間であるこの寺院。現代の感覚では広い境内と認識できるが、母の話ではかつてはもっと広かったらしい。母は幼少期この寺院に歩いて遊びに来ることができる近辺に住んでいた。その頃にはこの寺院にボートに乗れるほどの池があったそうなのだが、今となっては跡形もない。

 それでも境内のベンチに腰をおろしてぬるくなった水筒のルイボスティーなど飲んでいると、植物の深さが染み込んでくる。もうここは住宅街に囲まれた、周囲を限界まで削られかろうじて残っている土地なのに、空気に
植物の呼気が染み渡っている。

 郊外の山々に比べれば切ないほど僅かな管理された緑地であっても、その中にいると呼吸に合わせて緊張がほぐれていくのが分かる。逆をかえせば、普段我々はいかに無意識に緊張しているのだろうか。
 人間は自然を離れ文明に向かう。しかし街中に街路樹は残り、ビルの中に鉢植えはたたずみ、木目のテーブルがそこかしこに置かれている。きっと自然を全て失ってしまうことも恐ろしいと分かっているのだろう。

 肺の澱みが浄化され、毛細血管に新緑の光が行き渡る。いつかは灰ではなく、五月の苗床になれれば最高だろう。


今日の英語:Relax

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