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磨かれぬ鏡に空は映り

 開花だけでなく、桜は咲いて散るのも速くなっているように感じる。約1週間前は八分咲き程度だったのが、今日はもう残り6割ほどになっている。しかし機会を逸して寂しくないのは、桜に脆弱性を感じてしまっているからだろう。
 人工樹木の脆弱性。クローンの遺伝子は磨り減りつつあるのではないだろうか。
 それでも春は愛おしく、花弁の落ちた水面を浮き浮きと撮影したりもする。湖水から水溜まりまで、地上の水面は私の好きな風景のひとつだ。それに花が映り花が落ちているとあっては撮影せずにいられようか。

 私の好きな用水路横の散歩道。車通りも少なく散策にはうってつけなのだが、場所はバイオリン教室の帰り道、重い楽器ケースを背負ったまま歩かなければならない。散歩すると決めた日は自宅から歩きやすい靴と覚悟をもって出発しなければならないのだ。

 水面は小さくとも面白い。風、魚の揺れ、浅くても空の深さを映しこむ。静まり返った水面は焦点が消失する。高さが2倍になった空は鏡の国の入り口。

 世間一般は春は花を見上げるが、私は水面ばかりを見下ろしている。すれ違った人たちはよほど珍しい魚でもいるのかと思ったかもしれない。しかし実際は鯉とミシシッピアカミミガメ。都会の貧弱な生物圏だが、それでも花と春の空が訪れている。



今日の英語:Detetioration

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