現象の先端

 何かが降っていた。ここからはよく分からない。
 今日はどうやら雹のようなものが降ったらしい。「らしい」というのは仕事中でその痕跡しか見れなかったからだ。
 私が仕事机があるのは建物の2階。窓の外は信号の無い道路を挟んですぐ住宅街になっている。けれどもそれだけで雨の音は聞こえなくなる。窓に叩きつけるような角度で降っていれば別だが、大抵は空の明るさで天候の変化に気付く。
 たった4m、それだけを地上から離れただけで雨の音は遠ざかってしまう。水の音が消える……。
 雨は、600mの高さから無音で落下してくる。雨音はその最後の瞬き、水の大循環の奇跡の一瞬。慈悲と無慈悲の狭間の音叉。
 水はどういう象で降っていたのだろう。私の爪先にある痕跡は今消えていく。


今日の英語:Hail

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