長い長い優しい登り坂

 私がバイオリンを教わっているK先生に生徒は3人しかいない。私と母ともう1人。以前我々が教わっていた師匠がコロナ禍の直前に逝去され、その後我々はK先生に師事した。K先生は全く欲の無い方なので自ら教室を開くことは考えていなかったそうなのだが、我々に他に師事する心当たりが無いことと、何よりK先生の人柄と実力を求めて半ば強引に依頼したのだ。
 こうした経緯で今に至るのだがK先生にとって他人にバイオリンを教えること、あるいはたとえ下手な弾き手でも他人とバイオリンで時間を共有することは精神衛生上とてもプラスになったようだ。教わるこちらが驚くほどK先生は楽しそうにバイオリンを弾く。そして上品で無垢な笑みを絶やさず上達を求める、砕けた言い方をすれば超ノリノリのニコニコスパルタだ。
 とにかくK先生は褒めてくれる。裏表の無い人物が嬉しそうに褒めてくれるのだからこちらは受けとる
しかないのだが、その褒めには「明日はもっと上手に弾けるようになるわよ」がセットなのだ。これで無理とか嫌とか言えるものではない。とにかくできる範囲で練習し努力するしかなくなるのだが、課題曲が私を誰と勘違いしているのか高難易度の曲ばかりなのだ。でも無理とか駄目とか言えるものではない。とにかくどうにかこうにか音にするとK先生はそれはそれは嬉しそうに褒めてくれる。そうしてニコニコスパルタが続いていくのだ。
 お稽古事から始まったバイオリン、紆余曲折はあったし虚しくなることもあったが、それでも続けていて良かったと思うし、今K先生に教わっていて良かったと本当に思う。


今日の英語:Smiley sparta

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