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旅行:まぎれもなくワクさ

 本の虫と自分でも言っていいくらい、本を読むことが好きだ。漫画を含め、本を読むことで我々は無限の世界を放浪することが出来る。時空や銀河を越えたって構わない。野を越え山を越え、現実には起こり得ない体験も出来る。不必要に告白すると私はどちらかと言うとアブノーマルな性癖なのだが、それさえもしっかりカバーリングしてくれるし、もっというとその先の世界だって垣間見ることは出来る。踏み入ったが最後三途の川なので、そこに行こうとは思わないが。

 しかもそれが、自宅で本棚から本を取り出すだけで叶う。島本和彦のキャラクター曰く、「マンガはパッと読める」。他メディアとの比較する文脈で出てきた言葉だが、蓋しそうである。本棚から銀河。こんなに嬉しいことはないのではないか。

 翻って、旅行。比較で出すくらいなので勿論旅行が嫌いである。旅行が憎い……。

 投資対効果の悪さたるや。例えば、東京都民が地方に足を延ばそうとすると新幹線や飛行機という話になるが、いずれもアクセスはげろしゃぶ以下。飛行機は荷物検査というアトラクションの待ち時間は当然看過出来ないし、東京駅もさながら渋谷新宿池袋な地下迷宮。しかも金を払って我々はアトラクションをクリアし、地下迷宮に潜るのである。おそらく、目的の乗り物に乗った頃には、読書をしているべき私は地球を二つ三つは救ったあとだ。

 そして最も示しておきたいのは、旅行の「期待値の上回らなさ」。旅行に行くという事実が醸し出すワクワク感というのは何事にも代えがたいのだが、それを凌駕することはまず無いと言っていい。映画館の予告編と同じイメージを、我々は旅行に対して持っている。明媚な自然、洗練された旅館、タイやヒラメの舞い踊り、GEISYA……などなどは、常に過剰な期待である。現実は、風雪にむせび泣き、トイレのウォシュレットは弱く、具の少ない味噌汁が、GENJITSU……

 とは言いつつも、やはり旅行のワクワク感、つまり期待値を大幅に上回ってくれるのではないかという期待感はやはり旅行特有のものであり、それだけは享受したい。本屋で新刊を物色しているときよりも、それは、まぎれもなくワクワクなわけだ。

 なので、私が旅行で最も好きなのは「新幹線でこだまに乗っている時間」だ。高級なシートで旅行の「気分」を味わいつつ、閉鎖された空間で何人にも邪魔をされずに読書にいそしむ。東京から新大阪まで、4時間を掛けてめくるめく冒険の世界に没入する。これこそが真の旅行と言えるのではないか……

 ということを真剣に考えるようになったら、それは人恋しさの裏返しなので誰かと旅行に行った方がいいです。だって出版不況のこのさなか、年々観光客ってのは増えてるそうだぜ。比較にもならんよ。御託を並べる暇があったら、書を捨てて街に出るべきだ! ……とは思っているんだけど、ねえ。

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