見出し画像

<北海道キャンプ旅④>幸せでちょっぴりせつない稚内の夜

クッチャロ湖でのキャンプをあきらめて稚内のホテルに泊まった夜、ホテルの近くにある居酒屋へ行った。
夕方、私はホテルに入るやいなやベッドにもぐり込み、ふかふかの布団にくるまって2時間ほど体を休めた。その時間が自分で思っていたよりも幸せで、やっぱり疲れていたんだな、と思った。

夫はその間にスマホでホテル周辺の居酒屋をリサーチしてくれていて、私が起きると「店は任せとけ」と言う。夫についてホテルを出ると、同じように夕食の店を求めて町をさまよっている旅人らしき人たちがちらほら歩いていた。
夫はまるで何度も稚内を訪れたことがある人のように、地図も見ずにお店に案内してくれた。残念ながら1軒目は満席、2軒目は定休日で入れなかったが、「まだ候補はいくつもある」と次々に連れていってくれる。

3軒目の「竹ちゃん」という店に入ってみると、そこも満席だったが、「名前をお書きください」のボードがあったし、待っているのは1人だけだったので、とりあえず名前を書いて待つことにした。
この店は人気のようで、私たちの後にもどんどん名前を書いて待つ人が増えてきた。それも男性のお一人様が多い。きっと北海道を旅しているバイカーで、仲間内ではこの店が評判なんだろうと思った。「稚内に行ったら、竹ちゃんに行ってみて!」と。完全に私の想像だが、男性のお一人様が名前を書くたびに期待が高まっていった。
それに、入口に生け簀があって、大きなホタテ貝や牡蠣がごろごろと入っているし、鰻もいた。ここは絶対おいしいやろ!

大きな牡蠣!
大きなホタテもたくさん!

30分以上待ったが、なんとか席に案内してもらうことができた。
私たちの前にいた男性が店員さんと「何年か前に来たことがあるんですけど、なんか感じが違う」「改装したんで、雰囲気変わったかもしれないですね」みたいな会話をしていたのが聞こえた。
確かに中はきれいで、案内された席も小上がりでゆったり座れた。それに、注文もタッチパネルでするタイプだったので、最近いろいろリニューアルしたんだなとわかる。

お造りの盛り合わせ、ししゃも、海藻サラダ、もずく酢を注文。元気が出ていたので少しお酒も飲めそうだと思い、北海道の地酒を飲むことにした。
私は北海道の酒蔵をたくさん取材している。銘柄でいうと、「千歳鶴」「国稀」「男山」「北の錦」「ニセコ」「郷宝」。振り返ってみると6蔵も行っていた。
札幌市内だと「千歳鶴」が強いが、ここは道北、それも北の果て稚内。やはり日本酒も「最北の酒蔵」と言われている国稀酒造のものをよく見かける。
この店には数種類の日本酒があったが、ここはやっぱり地酒だろうと、「国稀」を注文した。

夫はビールで、私はおちょこに日本酒を注いで、カンパイ!
私はこの旅で初めてのアルコールだった。ついこの間までの自分ならフェリーに乗った瞬間からビールを開けているに違いない。この1年半くらいで随分弱ってしまったもんだな、と思う。「仕事と酒が人生」みたいな生活をしていた自分が、もう遠い。

久しぶりの日本酒はおいしかった。沁みる。
ふと夫を見ると、ずっとニコニコして私を見ている。ニコニコを通り越して、にまにまというか、気持ち悪いくらいニヤけていた。
そして、「うれしい。かおりと北海道に来れて、稚内の居酒屋で一緒にお酒飲めるなんて、うれしい!」と、何度も何度も繰り返す。
これまで「普通」だったことが、今は夫をこんなにも喜ばせるのだと思うと、少しせつなくなった。
でも、本当に何度も「うれしい」を繰り返しながら幸せそうに笑っている夫を見ていたら、私もうれしくなって、幸せで目の奥が熱くなった。

「竹ちゃん」のお料理はどれもおいしかった。つき出しは煮たホタテだったが、それがかなり大きくて2つ入っていたので、私はもうそれだけで、わりとお腹が膨れていた。
「揚げ物大王」と呼ばれていた揚げ物大好きな夫だが、私に合わせて、私が食べやすいものばかり注文してくれた。

お刺身盛り合わせ。どれも絶品!
たっぷりの海藻サラダ
やっぱり北海道の本物ししゃもは違う!
もずくが生海苔みたいな食感だった

結局、日本酒は半合も飲めなかったが、それでも久しぶりの居酒屋、久しぶりのお酒の味は、私を十分幸せな気持ちにしてくれた。
何より夫の笑顔が忘れられない。

幸せで、ちょっぴりせつない稚内の夜。

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?