人として、一番大事だと思うこと
「人間っていうのは、誰かが喜んでくれると自分も嬉しくなるものだと思うよ、僕は」
K店長はそう言って、コーヒーカップに口をつけた。
私はメモを取りながら、じっと次の言葉を待っていた。
「人間の本質って、そういうものだと僕は思う。だから、お客さんに喜んでほしい。お客さんが喜んでくれたら、僕も嬉しい」
とてもシンプルで力強い言葉だった。
もう20年近く前、私が某カメラチェーン店の社内報制作に携わっていた時のことだ。当時、その会社は約80店舗を展開していて、私は取材でいろいろな店舗をまわっていた。
売上の良い店、キャンペーンなどで結果を出した店、上手な売場作りをしている店、頑張っている社員やパートさんがいる店などを取材して、社内報で紹介するのだ。
その時も、何かの成功事例としてK店長の店を訪れたのだった。
ちょうど休憩だからと、K店長は店の近くの喫茶店に私を連れて行き、コーヒーを飲みながら取材を受けてくれた。
売上を伸ばすために気をつけていること、仕事をする心構えなどを聞いていると、K店長が先述したようなことを話し始めた。
それまでもサービス業、小売業に関わる人たちを取材していると、「お客様のために」「顧客第一主義」といったワードはよく出ていたから、K店長の話も珍しいものではなかった。
ただ、今でも忘れられないのは、「お客様の喜びのために働いています」というのではなく、「人間って、人が喜んでくれたら自分も嬉しいんだよ」と、人間の本質、人間の根本的な性質に焦点を当てて話してくれたことだった。
取材を終えた帰り道、シンプルだけど深い言葉だなぁと思い返していた。
K店長がお客様を喜ばせる。
お客様が喜んでいるのを見て、K店長も嬉しい。
そんなK店長の話を聞いて、私も嬉しくなる。
私が書いた記事を読んだ人が、また喜ぶ。
その記事を参考に自分もお店でお客様を喜ばせる人が出てきて、どんどんつながっていく。
これって、仕事を通した“喜びの連鎖”だ。
誰かに喜んでもらえたら、自分も嬉しい。
私もそれが人間の本質だと信じたい。
そういえば、「ドラえもん」の中で、未来のしずかちゃんがのび太と結婚することになる話があり、結婚前夜にしずかちゃんのパパが、しずかちゃんに言った名言がある。
「あの青年(のび太)は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それが一番人間にとって大事なことなんだからね」
私はK店長に出会うもっと前、塾講師のアルバイトをしていた時、卒業する生徒に、この名言をちょこっと真似て、手紙を送ったことがある。
「人の幸せを自分のことのように喜び、人の不幸を自分のことのように悲しめる人になってください」
それが、人として一番大事なことだと思ったからだ。
あの時の彼らは今、どんな大人になっているだろうか。
K店長のように、「人の喜びが自分の喜び」だと、自然にそう思える人になっていてくれたら、と思う。
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