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<北海道キャンプ旅③>まっすぐな道、白い道

北海道はまっすぐに続く道が多い。果てが見えないだけでなく、道の両脇には建物がほとんどなく、だだっ広い草原の中を一本道が通っている、そんな道が多々ある。
道民の方にとっては珍しくもないただの道が、ごちゃごちゃした街中に住んでいる者にとっては、感動的な場所となる。わざわざ行って走りたくなる。
よって、道そのものが観光スポットとなっていることも多い。

朱鞠内湖を後にした私たちは、クッチャロ湖を目指した。今晩はここでキャンプの予定だった。
クッチャロ湖畔キャンプ場は、目の前にクッチャロ湖を眺められる場所にテントを張れる。料金は1人400円!
それも徒歩圏内に温泉宿まであり、そこの日帰り温泉を利用することもできるのだ。ゴミ捨てもOK。なんともありがたいキャンプ場だ。

残念ながら曇っていたが、クッチャロ湖まで来られたことに感激!

「北の果て感」がすごい
クッチャロ湖の向かい側にテントを張れる

キャンプ場はそれほど混雑もなく、人はまばら。ソロのおじさんやバイカーが目立つ。この湖の目の前でテントを張れることにワクワクしたが、気持ちとは裏腹に体は疲れ切っていた。
言わなくてもそれがわかっていた夫は、「今日はこのまま稚内に行ってホテルに泊まろう。まだ先は長いんやし」と言う。「天気も良くないし」「俺も疲れてるし」と、私に気を遣わせないように言葉を重ねる。
ありがたいが、キャンプはしたい!!
そして、その思いを自分で打ち消すくらい疲れていることにも気づいている。

悩んだあげく、夫の提案に従ってここでのキャンプはあきらめた。悔しいが、無理をして残りの旅ができなくなるほうが辛い。一度リセットして、元気になるほうを選択した。
夫がすぐに稚内の適当なホテルを予約してくれたので、稚内へと向かった。

その途中に「エサヌカ線」と呼ばれる道がある。約8kmのまっすぐな道だ。道の両脇に建物や電柱、ガードレールなどが一切ないのが特徴だ。なんなら高低差もない。本当に「まっすぐな何もない道」ということで、車やバイクで「一度は走りたい道」のひとつになっている。

この道に入る少し前に、バイクの集団と出会った。10人くらいの団体で、年齢はやや高め。走るのが好きな人たちが集まってツーリングを楽しんでいるようだった。
ゆっくり走る私たちを順番に抜いていく時、一人ひとりが手を上げて挨拶してくれたから、礼儀正しいなぁと思い、私も助手席で手を上げて応えていた。それがよかったのだろうか、彼らはエサヌカ線の直前でいったん停まって集まっていたのだが、今度は私たちの車が彼らを抜いていく時、みんなが手を振ってくれた。中には笑顔で両手をぶんぶん振って見送ってくれた人もいて、なんだかあたたかい気持ちになった。

「いったんみんなで集合して、一緒にエサヌカ線を走るんやろね」と予想する。それはバイカーにとってかなり気持ちいいはずだ。
そんなことを言っている間に、もうまっすぐな道が現れた。
「エサヌカ線やで!」と夫。特に表示があるわけではないが、確かにまっすぐな道が続いている。2人とも「おーーーっ!」と興奮して、私は窓から手を出してスマホで必死に撮影。風が強いので吹き飛ばされそうな中、必死に撮っていたら、夫が「あ、ここエサヌカ線とちゃうわ。普通の道やわ」と言う。
「え~!必死に撮ってたのに~」と私。
「もうすぐ出てくるで。もうすぐもうすぐ・・・来た!ここや!」

確かにさっきよりもっとまっすぐな道が現れた。
「おおーーーーーっ!」
今度こそはと、また必死になって撮影を開始。すごい、すごい、本当にまっすぐな道だ~!
と思っていたら、夫がまた「あ、ここもちゃうわ。もう少し先やわ」と言う。コントか!

まあそんな間違いをするくらい北海道にはまっすぐな道が多いということだ。
そして、ついに本当のエサヌカ線に出た!
やっぱり“本物”は違った。何にもないまっすぐな道。両脇には牧草地が続く。北海道、広いな!やっぱりこの感じは北海道でしか味わえない。

これで晴れていたらもっとよかっただろうな

間違いも含めて、とにかくまっすぐな道のドライブを楽しんだ。
ふと「まっすぐな道」で、私が好きな種田山頭火の句を思い出す。

まっすぐな道でさみしい

母の自殺、弟の自殺、家の没落、家業の失敗、父親の死、一家離散、酒に溺れる自分。出家して「どうしようもない私」をただひきずって、山道を一人歩き続ける。
それは一体どれほどに孤独であっただろう。

どうしようもない私が歩いている

そんな句もある。
酒と文学に溺れて、迷い、悩み、出家した山頭火。
その底が見えない孤独感と、自らに課した十字架。それることのできないまっすぐな道をただ歩き続けることしかできない自分。
「さみしい」という言葉がずんと重くのしかかる。いつも山頭火の気持ちを思い、胸が痛む。

山頭火が歩いたまっすぐな道も、エサヌカ線みたいに広くて爽快な道だったらよかったのになと思う。それはきっと真逆の、細くて暗い山道だっただろうから。


無事に稚内市に到着し、ホテルに泊まった翌日、日本最北端の宗谷岬へ行った。

天気が悪くて残念!
でも、ついに来た!最北端の地!

この宗谷岬の裏手に「白い道」があるという。まっすぐな道の次は、白い道だ。
そこは氷河時代に形成されたというなだらかな丘陵地帯で、北海道遺産に認定されているとか。その丘陵の中にホタテの貝殻を敷き詰めた「白い道」があるのだ。
行ってみると、それは本当に「白い道」だった。

途中で車を降りて歩いてみた
白い道は海へと続く
白い道の正体はこんなの

車で走るのもよかったが、途中で車を停めて歩いてみたら、さらによかった。やっぱり旅は、スピードを落とすと、よりいろいろなものが見えてくる。
白い道を歩くなんて初めてで、なんだか不思議な感覚。変な意味じゃなく、天国に続く道みたいな気がした。

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