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当たり前で特別な、紙とペンでつづる時間。蔵前「カキモリ」にて

最後に紙とペンで書きものをしたのは、いつだろう。

学生時代は当たり前だったはずなのに、日記から買い物のメモまでスマホがメインとなった今では、手書きとは特別なシーンなのかもしれない。

そこで今一度、紙とペンで書く時間を心の内側を満たすとして楽しむ秘訣を,
文房具店「カキモリ」の代表である広瀬琢磨さんに聞いた。

「たのしく書く」をテーマに10年

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東京随一の観光名所・浅草にほど近い蔵前で、2010年11月よりスタートしたカキモリ。職人の街にも馴染むシックな外観は、自動車整備工場をリノベーションして完成させたものだ。このお店のコンセプトは「たのしく、書く人。」。会社においても、友人とのコミュニケーションにおいても、デジタルツールが当たり前となっている中での船出だった。

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「『書く』という豊かさがどんどん失われていっているのは感じていて、その機会をつくってあげる、文化を残していくことをしたかったんです。国内外のメーカーの既製品文具を売ることもしていますが、自分で表紙や中紙を選んで作る『オーダーノート』や、おなじく自らが調合して自分好みの色に仕上げる『オーダーインク』など、書くことを身近に感じてもらうような工夫をしています」

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もともと、広瀬さんの実家は祖父の代からつづく群馬県高崎市の老舗文房具店。親の姿を見てきたこともあり、学生時代から「いつかは自分の会社をやりたい」と考えていた。とはいえ、“文房具を扱う”という思いはなかったという。

「小さい頃から慣れ親しんではいましたが、そこまで文房具好きっていうわけではありませんでした(笑)。起業する前に、一度サラリーマンを経験しようと医療機器を扱う外資系企業の営業として2年半働いていたんですが、ちょうどやめたタイミングで親父から『文房具屋を継がないか』と声がかかってこの道を選びました」

当たり前で特別な「書く時間」

コロナ渦の影響もあり、ここ数年でレコード、ボードゲームなど、“アナログ”の人気は加速度的に進んでいる。文房具も例にもれず、デジタルネイティブ世代にとっては、物珍しさから、自分が選びぬいた特別なものを使おうと、“こだわり”を持つ人が増えている。

オーダーノート

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カキモリの代名詞とも言える「オーダーノート」はまさに“こだわり”の塊。サイズや表紙、中紙、リング、留め具などが自由に選べるので、購入した人の愛着もひとしおだろう。表紙に使う越前の手漉き和紙は、広瀬さんが実際に福井まで足を運び作ってもらうなど、顧客のこだわりに応える姿勢が見える。

「特別感のあるものを日常使いに落とし込めたらとは思っています。お店に来ていただければ、紙の試し書きができますし、パーツの組み合わせも入念にできるかと思います。だいたい、20分ほどお待ちしていただければ完成です。もちろん、現在の状況もありますのでご自宅からオーダーすることも可能です」

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たいてい、ノートに使用する紙は大手印刷会社を通して、下請けとなる職人さんに発注がかかるもの。だがカキモリでは、最終下請けとなる職人さんに直接依頼をして、中間にかかるマージンを削ぎ落としている。さらに、職人さんたちの言い値でコストが決まる仕組みができている。

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「企業が無理を言って、職人さんたちに条件を飲んでもらう……というケースもありますが、カキモリはそういった経営方針を行っていません。私たちが拠点としている蔵前はなにより職人さんたちとの連携が大事。お店が10年続いたのも、これまでの関係性に支えられてのものです。彼らのペースに合わせて、やれる範囲で、生産しています」

インク

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カキモリの2階にある、どこか実験室的な雰囲気の「inkstand by kakimori」ではノート同様、自らが調合したオリジナルのインクが作成可能。その時の気分に応じて、“特別な一色”ができあがる。

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「まず17色のベースカラーから、作りたい色のイメージにあわせて2〜3色のベースインクを選びます。そこからさらに1滴、2滴と混ぜてととのえ、試し書きして気に入れば完成、という流れになっています」

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またここで作られた色は、よく耳にするようなものではなく、「あのときの海の色」「あの小説に出てくる料理の色」など、ストーリー性のある名称が付けられる。これもまた、“特別な一色”の演出に一役買っている。

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「調合レシピとカラーサンプルは2年間保存されるので、同じ色が欲しくなった際でもすぐに再現できます。ちなみに、現在の万年筆用インクのほとんどに使われている水性染料は、水に弱いというのが難点なのですが、ウチでは、それが改善された水性顔料インクを使用しています。こちらも詰まりやすい、乾いたら洗浄しづらいなどのデメリットがあるのですが(苦笑)」

ガラスペン

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カキモリでは、日本発祥の筆記具「ガラスペン」も取り扱っている。その名の通り、ペン先からペン軸まですべてガラスで出来たものが一般的で、店を訪れて初めてを手に取る人も多いのだという。

「書くことそのものが非日常で、特別になっていることを考えると、ガラスペンは今後さらに注目されていくツールだと思います。一回インクに浸すだけで、ハガキ一枚分の文字が書けますし、使い終わったらペン先のインクを水で流すだけで後処理も完了するという手軽さが魅力です。なにより、見た目が美しいので、飾っておくだけでも様になりますよね」

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ガラスという素材の特性上、他のペンよりひときわ大切に扱っていきたいところだが、どのような使い方をすれば長く、そしてあますことなく楽しめるのだろうか。

「まあ、落とさないことというのが一番重要ですね(笑)。また書くときには“立てない”ことを意識してほしいです。ガラスペンは45度ぐらいで紙に当てるのがインクの出のバランス的にもいい。これで日記を書いて、昨日との色合いの違いを楽しむのも良いのでは」

デジタル主流だからこそ、文房具はもっと自由に

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カキモリのコンセプトに共感して、お店に足を運んでくれるお客さんは絶えない。お土産に、ギフトに、自分用に、など用途はさまざまだ。また一度足を運んでくれた人のリピート率は高く、すなわちそれは10年間やってきたことが間違っていなかったことの証左といえる。

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「『こういう文房具だったらほしいんじゃないか?』と試行錯誤してきて、やっとお客さまのニーズが分かってきた気がします。正直、いま瀕死の状態ではあるんですけど、“おうち時間”の増加によって、家具やキッチンなどが整えられていくと、いつかは文房具にも目が行くはず。そこに適合した商品をちゃんと伝えていければ、必ず光は見えてくると思っています」


モノの価値と継承のバランスを保ちながら、書くことの楽しさを伝え続けるカキモリ。今後は海外展開も視野に入れているとのことで、ローカル、そしてグローバルに、職人気質の残る街から発信していく。

SHOP DATA

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カキモリ

東京都台東区三筋1丁目6-2
Google Map
営業時間 : 平日12:00-17:00/土日祝日11:00-18:00 
※月曜日は定休日(祝日は営業)
インクスタンドは予約制。
オーダーインク・オーダーノートは公式サイトからオンラインでも注文可。

公式サイト
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