見出し画像

鉄道絵本レビュー(7) きかんしゃやえもん

鉄道絵本紹介、第7弾はこちらです。

「きかんしゃやえもん」

文:阿川弘之
絵:岡部冬彦

岩波書店


前回「ちかてつてっちゃん」の回でちょっと触れたこともあり、今回は言わずと知れた鉄道絵本の古典である「きかんしゃやえもん」を取り上げたいと思います。

前回の記事はこちら↓


子どもの頃に出会った絵本


拙著「ちいさいあおいでんしゃ」の回で、保育園勤務の経験をきっかけに、子どもの頃には出会わなかった鉄道絵本(もちろん鉄道以外の絵本もですが)にいろいろ出会ったと書きました。

ちいさいあおいでんしゃの記事はこちら↓

思い起こしてみると、自分が子どもの頃に出会った鉄道絵本って、この

「きかんしゃやえもん」
 と
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」

くらいでした。あとは鉄道の図鑑は好きでよく眺めていたのは覚えていますが、絵本はこの2冊だけですね。

「きかんしゃトーマス」なども本屋さんや図書館にはあったんじゃないかと思うのですが、全然見た記憶がありません…

やえもんのモデルについて


さて、日本版トーマス!?とも言える「きかんしゃやえもん」ですが、モデルは1872年(明治5年)日本初の鉄道開通に際しイギリスから輸入された10台の機関車のうち、最初に到着して「1号機関車」と呼ばれていた車両です。

1909年(明治42年)の 鉄道院の車両称号規程により150形機関車という形式になったようです。
1911年(明治44年)島原鉄道開業用に譲渡され、1930年(昭和5年)まで島原鉄道で活躍しました。

同年鉄道省に返還後、大宮工場で整備され、1936年(昭和11年)から万世橋にあった、交通博物館で保存されました。
交通博物館閉館後、2007年(平成19年)からは大宮の鉄道博物館に展示されていて、今でも見ることができます。

島原鉄道を離れるときは別の蒸気機関車との交換で、昭和初期には引退しているとなると、やえもんのお話しにあるような、動力近代化によって、電気機関車やディーゼルカーに追われて引退した、という感じではなさそうですね。

国鉄で39年、島原鉄道でも19年の、足掛け60年弱も活躍したということであれば、鉄道車両としては充分な活躍、長寿な部類ですよね。

そういうことも、今回レビューのために調べて初めて知りました。

物語と登場する車両


さて、やえもんは、支線の始発駅と思われる「いなかのまちのちいさなえき」から、自分と同年代の古典的な客車を引いて、「とかいのえき」にやってきます。

この駅では、シンプルな絵柄ながらも、特徴から電気機関車EF58やディーゼル機関車DD12(DD11や13初期車かも?決め手に欠く感じです...)、大型SL(D51あたり?)と思われる車両たちが集っています。

次のページでは「れえる・ばすのいちろうとはなこ」が登場します。
これは、似ているとは言いがたいですが、ドアが車体中央にあるようなので、国鉄型のレールバスの中でも、キハ01ではなくキハ02ということでいいでしょう。

このページはカラーで、「おけしょうをしてもらっている」のは茶色のEF58ですね。
その横を止まらずに行ってしまった特急は、高速で通過する姿が流れていて、ディティールは一切描かれていません。
が、特徴的なグリーン1色の色から、いわゆる「青大将色」のEF58牽引の特急「つばめ」「はと」あたりではないでしょうか。

その次の場面で、石炭を食べているやえもんをバカにする、「おおきなながいかもつれっしゃ」をひいた「あたらしいでんききかんしゃ」が登場します。
この電気機関車は、顔しか出てきませんが、特徴的な顔つきから、貨物用のマンモス機EH10ということで間違いないでしょう。

時代設定を考える


EH10は、東海道線の全線電化を控え、関ヶ原付近の勾配区間を1,200tの貨物列車を単機で牽引できる電気機関車として、1954年(昭和29年)に登場しました。1957年(昭和32年)までに64両が製造され、終始東海道本線や山陽本線(岡山以東)を中心に活躍し、引退は1981年(昭和56年)でした。

EH10が「あたらしいきかんしゃ」ということは、昭和30年代初頭あたりの物語で、舞台も東海道本線〜山陽本線沿線の、支線と接続しているどこか、という感じになりますね。

やえもんのモデルとされている1号機関車は、明治のうちに国鉄からは引退している、という話を先程しました。
なので、EH10の登場した時代との整合性はなく、創作であることには違いありません。

ですが、時代背景として、昭和30年代、電気機関車やディーゼル機関車に主役の座を追われつつある時代に、古い小型SLが引退するという実例はたくさんあったと思います。

そんな中で書かれた「きかんしゃやえもん」の第1刷は1959年(昭和34年)でした。

まさにEH10が登場したばかりの頃に作られた絵本なんですね。

最後に


ちなみに、国鉄で最後のSL牽引の定期列車が走ったのは1975年(昭和50年)12月のことだそうです。
入替用に残っていたSLも、翌1976年(昭和51年)3月には運転を終了しました。

同年中には早くも大井川鉄道で、SL復活運転が始まっています。
これ以降は動態保存機だけとはいえ、150年前の開業以来、日本の鉄道ではSLが走り続けているということになりますね。

「やえもん」こと150型、1号機関車は、鉄道記念物にも指定されており、鉄道博物館を入ってすぐの所に大切に保存されています。

今回「きかんしゃやえもん」を読み直し、知らなかった背景もいろいろ知ったので、また鉄道博物館に会いに行きたいと思います。

今日はこの辺で。長文お付き合い頂きありがとうございました。


〜この絵本に登場する車両〜


全て国鉄型

150型蒸気機関車(1号機関車)
大型蒸気機関車(形式不明)
DD12?(DD11かDD13初期車かも)型ディーゼル機関車
キハ02型ディーゼルカー(レールバス)
EF58型電気機関車
EH10型電気機関車
2軸有蓋貨車(形式不明)
2軸古典客車(形式不明)
旧型客車(形式不明)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?