「ほんまいろいろあったんじゃけー!」広島への全盲子連れ旅!1日目(前編)

広島旅行一日目は、三人で新幹線に乗り込むところから始まった。
 車内は週末とあって混雑していた。新神戸に差し掛かるまでに、ひなちゃんは持ち駒の一つ「クッキー」を食べつくし、ぐずり始めていた。どうにか岡山まではねばったが、ひなちゃんお気に入りの木の車を用いた「おもちゃ作戦」も通用しなくなった。
私はひなちゃんをだっこひもに入れ、新幹線のデッキに立つことにした。人通りはあるがひなちゃんの泣き声も大きな走行音にかき消されるこの小さな空間を私たちは逃げ場としている。
デッキに立っていると、車掌さんが通りかかる度に、
「お子さん寝かしつけですか?」
「お困りのことがございましたら、いつでもお声かけください。」
と気遣いの言葉をかけてくださった。
 福山に差し掛かったあたりでようやくひなちゃんはお昼寝に入り、夫がうとうとしている座席に戻った。席に座ると間もなく新幹線は広島駅に到着した。ほんの数分の休憩であった。
 ぐっすり眠るひなちゃんを抱え、私たちは改札前で待ってくださっていたT先生そして、寄宿舎でお世話になった先生と合流した。T先生は私の知っている他の先生方にも、声をかけてくださっていたのだ。先生は数年前に会った時と変わらず元気な声をしていた。
 挨拶をそこそこに私たちはタクシーで先生が予約してくださっていた、日本料理屋さんに向かった。
 料理屋さんで、当時体育を担当してくださっていたもう一人の先生も加わりご飯会は始まった。
静かな雰囲気のお店は個室で座敷となっていた。夫は単品のうどん、私はセットのウナギ丼を注文した。
料理が運ばれみんなで
「いただきましょうか。」
と箸を手にした時
「待ってましたー!!!」
とばかりにひなちゃんはだっこひもの中で盛大に伸びをし、起きだした。タイミングが良いのか悪いのか、大トリ?いや、ラスボスのお出ましだ。
ひなちゃんは起きるなり周りを見まわし、場所が車内から料理屋さんへとガラッと変わったこととメンバーが増えたことに一瞬の戸惑いを見せたものの、テーブルの料理に気づくや否や、手を伸ばし始めた。本領発揮だ。
テーブルによじ登らないようにするにはどうしようか、どうしたらおとなしく座って食べてくれるだろうか、と私は心配していたが、杞憂に終わった。
ひなちゃんが座敷をうろうろ歩き回り、それぞれの先生に近づいていく度に、先生方は代わる代わる茶碗蒸しやサラダのジャガイモ、ご飯などを自然に食べさせてくださったのだ。食べ物をねだりながら自由に回遊するひなちゃんはまるで何かの小動物のようだった。
おかげで私は当時のクラスメイトや学校のことなど、思い出話をしながらゆっくりとウナギ丼を堪能することができた。
子連れでゆっくり外で食事というのもなかなかないものだ。
 無事食事が終わると私たちは滞在先のホテルに向かった。ホテルにいらない荷物を置き宮島に向かうことになっていたのだ。
ところが非常事態が発生した。ここで夫が離脱し、ホテルで過ごすこととなったのだ。
旅行には想定外もつきものだ。前日の夜夫は豚キムチを食べすぎ、朝からお腹の調子が悪かったのだ。
新幹線で体力温存とばかりに寝ていたのも、よく食べる夫がいつになく単品のうどんのみを注文したのもそのためだ。
夫はお腹がそれほど強くないようで、濃いものを食べすぎたり、イベントがあったりすると、お腹を壊す傾向がある。旅行前日にたくさんの豚キムチなど出すべきではなかったのかもしれない。
(なにも今日じゃなくても。)
と思いたくなるが、昔から遠足や運動会などは楽しみすぎて当日体調を崩し、欠席してきたらしい夫だ。今回も例外ではなかった。
 ということで私とひなちゃんT先生の三人で、船に乗り宮島に渡ることとなった。

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