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練武知真 第25話『時を越えて人と繋がることを学ぶ為の武術』

私は伝統武術家です。

中国の伝統武術『形意拳』と『八卦掌』を長い間修行してきました。

 

当時茨城県に住んでいた、ハルピン出身の中国人伝統武術家

『趙玉祥老師』

に茨城大学2回生の時に出会い、卒業までの間、毎朝、小学校の校庭で形意拳のマンツーマン指導を受けました。

 

大学を卒業し、地元京都の警察官として働くことになり、趙老師と一旦お別れすることになりました。

 

そして・・・

京都府警で2年間働いたのですが、色々な事があって辞職することに。

 

さて再就職はどうしようかと、あちらこちらの公務員の採用募集を取り寄せていたところ・・・

 

偶然にも、

私が大学時代を過ごし、趙老師が住まう茨城県の募集に、

「茨城県警察・科学捜査研究所・法医鑑定員」

の採用試験の案内があったのです。

 

受験資格にあった「生物系の学部卒業」というのも、農学部畜産科卒だったのでクリア。

しかも前職は警察官。

 

思い切って受験すると・・・奇跡的に合格しました。

 

そこから18年間に及ぶ科捜研の法医鑑定人としての人生が始まるのですが、

趙老師の下で再び武術修行ができることに無常の喜びとともに、

老師との深い『武縁(武術界における人の縁)』を感じずにはいられませんでした。

 

「拝師式」という中国伝統武術界独特の儀式を経て、私は趙老師の正式な弟子となり、より深いお付き合いをさせて頂くことになりました。

 

武術指導以外でも老師のご自宅によく通うようになり、食事やお酒をご馳走になり、色々な話をしました。

 

武術についての話は勿論のこと、中国と日本の習俗の違いや考え方の違いなどについても。

 

一つの物事を捉える場合でも、慣習や文化、歴史が異なれば捉え方や対応が異なるという事・・・

そこに「善し悪し」はないという事は、私にとって大きな学びとなりました。

 

さて、そのように忌憚のない話し合いをさせて頂くようになると、少々の意見の食い違いが生じることも出てきます。

 

ある日、趙老師が

「小幡さんはもっと伝統というもの大切にしなさい」

と仰いました。

 

私自身は伝統というものを敢えて疎かにしているつもりはなかったのですが・・・

その時は丁度、「技は常に変化し、改新されるものだ」という考えを持ち始めた頃でした。

当時の私は確かに技術偏重主義だったと思います。

 

趙老師ご自身が

様々な武術や哲学、情報を採り入れ、新しい技や套路(武術の型)などを開発、創造されてゆくのをそばで見ていたからかも知れません。

開発のお手伝いをした事も少なからずありました。

 

また趙老師が私に仰った

『師の教えた技ができるだけでは【武術愛好家】だ。

自身で技や練習法を生み出せるようになって初めて【武術家】と呼べる』

という言葉に深く感銘を受けたからかも知れません。

 

技や体系は代を経て、時を経て変わるもの・・・

では「伝統」とは何だ?

 

時代が変わり、ニーズが変われば、もしかしたら、目的すら変化するかも知れない。

ならば「伝統」とは?

 

その疑問をストレートに老師に伝えました。

 

その時の老師の応え。

『伝統とは人だ』

 

この時の衝撃は今も忘れません。

 

私は結構ドライなところがあり、何か漠然とした形式化されたものに全身全霊を捧げる気になれません。

ちゃんと自分の中で明確に納得できるものに対してリスペクトし、自分の奥底に迎え入れ、大切にします。

 

それまで、その対象は直接の師である趙老師個人だけでした。

 

そんな頑固な性格の私に

『伝統とは人だ』

という言葉は、頭の中央と心の深奥に真っ直ぐに突き刺さりました。

 

私が武術を学べるのは趙老師のおかげです。

その趙老師が武術を身に付けられたのは、その先代の老師のおかげ。

そして、その先代老師の武術は、さらにその先代の老師のおかげ・・・。

 

このように古から連綿と

《人から人へ》

と伝えられてきた技。

 

その世代世代で、変化と創造が繰り返されつつ、私のところへと連なってきた技。

 

私の拳には、

時代を超えて、

たくさんの人達によって育まれてきた技術が宿ってる。

伝えようとする「想い」とともに。

 

それが我の『伝統』です。

 

そして私もまた、

次代へと伝える流れの中の一人となるのです。

 

 

 

2024年8月7日 小幡 良祐

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