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ブルーという選択肢

「何色が好き?」

昔、ほんの少しの間好きだった男性に、唐突にそう聞かれた。

好きな色を答えればいいだけなのに、

私は数秒間、いろいろなことに思いを巡らせた。

本当は桃色が一番好きだけど、よく選ぶ服は緑色が多いし・・

そして、そもそも彼は何色が好きなんだろう?

彼と好きな色が同じだといいな、と思って、

結局「みどりが好き」と答えていた。

彼は「僕は青が好き」と言った。

私は話が行き違ったくらいのショックを受けて、

その会話はそこから発展しなかった。


彼は話上手で目立つ存在で、いつも誰かに囲まれていたけど、

1週間に1度会う講堂では、私の真後ろに必ず座り、

そこにいるよ、と合図するかのように

私の椅子をいつもポンと蹴ってきた。

蹴られると心が弾んで、

後ろを振り向いて彼に二―っと笑ったり、

時には気づかないふりをしたりした。

「Nくん、いつもYちゃん(私)のことしか見てないね」

友人のひとりが彼をじっと観察してて気づいたらしく、

そう言った。

「ありゃ、惚れてるね」

私は心がちょっとくすぐったい気持ちだった。


でも、好きな色を聞かれたことを境に、

彼がなんとなくよそよそしくなったことを感じた。

そして、ある時、彼が誰か別の女の子の下の名前を呼び捨てにして、

追いかけて行ったのを見た。

彼がその女の子と婚約したのはその少しあとだったか。

彼女の好きな色は青で、

彼が彼女にターコイズブルーのセーターを買ってあげたというのを

あとになって知った。

なんとなく・・・

もしかしてだけど・・・

彼は彼女と私の間で迷っていて、

好きな色が同じ青の彼女を選んだんじゃないか・・

そんな気がした。

私は好きな色を聞かれた時、桃色か緑色かで迷っていて、

青色という選択肢はなかった。

あの時、青と答えていれば、何か変わったのだろうか。

それとも、やっぱり彼は彼女を選んでいたのだろうか。

なんにしても、私の淡い短い恋は終わった。



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