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【ヘッドホン】MDR-7506を修理&改造

・沈黙

2020年6月2日、不意に静寂が訪れた。昨晩まで使えていたSONYのヘッドホン「MDR-7506」の右側から音が聴こえなくなったのだ。突然の消失に焦りの色を隠せなかった。音楽制作を生業にしている筆者は普段、おもにスピーカーで音を確かめている。ヘッドホンを使う頻度は週に3日程度だが、使えないままでいいわけでもない。

MDR-7506は製品のコンセプト上、パーツなども豊富に流通している。音楽スタジオで使われる定番商品ゆえ、カスタムパーツや情報もネットの海を泳げばごまんと浮いている。だから、メンテナンスや修理がしやすい。電気工作が好きな筆者は悩んだ末、自分で修理と改造を行い、アップグレードすることにした。

何はともあれ、まずは修理箇所の特定とパーツの選定だ。テスターで測定したところ、電気はヘッドホン端子から左側を通過し、右側の配線までは来ている。どうやら断線ではなく、音を鳴らす機構であるドライバーユニット自体が死んでいたもよう。

・パーツ収集

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ということで、ドライバーユニットは左右ともに新品を用意。ただ、7506用のものがなかったので、CD900ST用のもので代用。7506はCD900STの海外版のようなものなのでそのまま流用が可能なのだ。ちなみにCD900STはハウジング部分に赤いラベルが貼られているため「赤帯」、7506は青いラベルなので「青帯」と呼ばれている。

ついでにカールコードが邪魔くさかったので、ケーブルを良質な配線に取り替えるリケーブルも試すことにした。購入したのはUmbrella Companyで取り扱っている「900 QUATTRO」。サイトによると

CD900STのリケーブル用にサウンドと構造を最適化した4芯ヘッドホン・ケーブル

とのことだ。コネクターも合わせて良いものをとFURUTECHの「FP704G」に。

さらに、イヤーパッドも良いものに変更。YAXIの「stpad-DX-LR」という商品をチョイス。たかがイヤーパッドとバカにしてはいけない。これひとつで全く別のヘッドホンかのごとく音がガラリと変わる。部屋でいい音を鳴らしたい時、いちばん重要なのは高級なスピーカーやアンプではなく”空間”だ。イヤーパッドはヘッドホンにおける”空間”を作る大事な部分で、低域の伸びから高域のきらびやかさまで変化する。

・修理とアップグレード

パーツが揃ったところで、実際に修理およびアップグレードのフェーズに移行。ケーブルを購入したUmbrella Companyで紹介していたこちらこちらの方法を参考にした。このヘッドホンは、グラウンドがLR両チャンネル共通となっており共通インピーダンスが発生し、LRの音が混入してしまうクロストークの原因となっている。完全には解消できない問題だが、この方法を使うことで大きく改善される。

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Lch側を分解すると、このような配線になっている。まずこれらを外し、新たなドイバーユニットに接続しなおす。配線を取り外したら、コネクターとヘッドホンを繋ぐ900 QUATTROの被覆をむく。

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4芯ケーブルなので4本ぶん。2本はLRそれぞれのグラウンドとなる。もともとついていたケーブルは3芯で、1本でLRのグラウンドをまかなっていた。

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被覆を剥いた後は、コネクターとはんだ付けする。

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今回使用したはんだは日本アルミット。KESTER44と迷ったが、クリアな音質を目指しこちらを選択した。

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ドライバーユニットのLchに一手間かける。画像部分の端子をカッターなどで切断し、コールドを独立させる。切断したら配線をはんだ付けする。

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右側は通常通り配線する。LR両チャンネルともにベントホールを両面テープで塞ぎ、真ん中のベントスリーブに入っているスリーブレジスターを取り出している。この工程を経ると出音がフラットになるとのこと。

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少しずつ組み上げていく。ドライバーユニットが美しい。

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吸音のためのウレタンフォームは、紙製シールを貼り付けて吸音と反射のバランスをとる。

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ハウジングのこの部分におさまる。900STにはあり、7506にはないパーツだが、ドライバーユニットを900STのものにするので導入した。

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組み上げたらイヤーパッドを装着し完成。早速、試聴してみると周波数帯のバランスが良くなり、低域も伸び、定位感などが明瞭になっている。個人的に900STのサウンドはシャキシャキしすぎて苦手だったが、全く違うサウンドに仕上がっている。ミックスチェックだけでなく、レコーディング時のモニタリングにも大いに役に立つだろう。

そこまで難しくない手順で、皆さんのお手元の900STが大変身すると考えると、トライする価値のあるモディファイではないかと思う。ただ、キャリブレーションソフトのSonarworksと、beyerdynamicのDT990PROの組み合わせを聴いてしまうと……。

音は好みなので、ぜひ自分の好きなサウンドを探して彷徨っていただきたい。


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