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第2話「レン」

西暦2069年 6月13日 00:00
シン東京郊外

激しい雷雨の夜。

この時代に合わない
レトロな壁掛け時計は、
ちょうど夜中の12時を指した。

「——『オープン』」

——ヴゥン……ジジジジジ

女性の声が聞こえる。
なんとも透き通った綺麗な声だ。

彼女が言葉を唱えると、
目の前にデジタル画面が投影され、
最新の情報が映し出される。

「この時間の通知は、珍しいわね。
 しかもCAWからなんて、
 何があったのかしら……」

CAWとは、
Twitterに似た "匿名登録制" のSNSである。

Twitterと違う利点は
シン日本帝国の情報操作を受け付けない為
ナマの情報収集には欠かせない。

(⁉……これは……)

美しい銀髪に、
緑色の長い髪を編んで
肩のあたりに垂らした少女。

彼女が、
革命DAO組織 "樂画鬼" の
ファウンダー "レン" だ。

ファウンダーとは、組織のリーダーの様な存在

CAWの通知内容は、

「反社会組織 "ヘルメス" の
 構成員を公開処刑する」


という、知らせだった。

――ガチャ

奥のドアが開き、
溌溂とした女性の声が聞こえてくる。

「おーい!
 レン、シャワー出たぞー!」

その女性は、
髪の毛をガシガシと拭きながら、
レンの目の前のソファーに座る。

「レン、どうした?
 ……なんか神妙な面持ちだな?」

桃色の髪色、左目に縦傷……
鼻に貼った絆創膏がトレードマーク。

この女性は "リゼ" という。

レンと二人で活動している
"樂画鬼" の関東支部メンバーだ。

革命DAO組織 "樂画鬼" の一員

「レンちゃん、どうした?
 ふぅ……反応なしか、よっと!」

リゼは両ひざに手を当て
ソファーから勢いよく立ち上がると、
レンの投影したニュースを横から覗く。

「まーた、ヘルメス捕まってんのかよ。
 絶対拷問フルコースだろ、コレ。
 ……どうせ、トップを捕まえても
 アイツらは日本を取り戻すまで解散しねぇよ」

ヘルメス拘束のニュースは
日常化しており、
特に珍しいことではない。

しかし、レンが驚いた理由は
生け捕りにされた
ヘルメスの構成員リストにあった。

リストの顔写真を見て
レンは驚きのあまり、一粒の涙をこぼした。

(——まさか、この少女……。
 まずい……どうする!?)

レンは食い入るように画面を見ている。
リゼはその様子に違和感を感じる。

そして、ふとレンの顔を見ると…

「……ん?って!?」
(レン……泣いてんのか?)

気がついた時には、
すでにレンは動き出していた。

——バサッ!!

彼女は、涙を細い腕で拭うと、
薄く透明な羽織を着て、
慌てて飛び出そうとする。

「ま、待て!!」

リゼは、両手を大きく広げて、
出口を塞ぎ、救出を猛反対した。

「おい、やめとけ!
 助けに行こうとしてんのか?
 無理だ、シン日本軍の拘置所は警備が……」

「!?——うるさい!!」

感情の昂ったレンは腕を振るい、
珍しくリゼを跳ね除けた。

「クソッ!
 自分たちだけでも、危ういんだぞ!?」
 (――力ずくでも止めるべきか?)

リゼが悩んでいる間に、
レンは外に出た。

大雨に打たれながら彼女は叫ぶ。

(何でこんな時に……嫌な雨ね……)
「———『ウォレット』!!」

空中に投影されたウォレットの中から、
バイク型のNFTを選んだ。

レンはしゃがみ、
両手を地面に触れ、言葉を唱える。

「———『ミント』!!」

すると、
地面から緑色の幾何学文字が広がり
螺旋を描いていく。

それは徐々に輪郭を象り、
バイクを目の前に具現した。

「アオイ、今行くわよ。
 耐えて……!!」

——ズド、ズドドドドド!!!

レンはまたがり、
エンジンをふかした。

操縦をマニュアルに切り替え、
アクセルを強く握る。

目的地である東京第二拘置所へ、
猛スピードで急進する。

「あー!!もう行くしかねぇか……
 マジで骨が折れる……」

リゼは雨に打たれながら、
レンの背中が小さくなるのを眺めていた。

結局、彼女の後を追うことを決め
周到に準備をし、出発するのだった。


同日 6月13日 00:26
拘置所に続く道路

拘置所まで、あと数分のところだった。

レンは、
後方から何やら気配を感じる。

(……つけられてるわね)

———ヴォン!!!!!!!!!!

彼女がバックミラーで確認する間もなく、
一台のバイクが猛スピードで左脇を駆け抜け、
進路を塞いだ。

———キキキキキ!!!!!!

レンは已む無く、
急ブレーキをかけ停止した。

(……くそ、こんな時に!
 また邪魔をするの?ほんと暇ね!!)

レンは心の中で怒った。

なぜなら、触発すると
さらに面倒に巻き込まれるのを
彼女は知っているからだ。

「——急ぎか?こんな夜中に?」

正体は、
中国系マフィア "絵亞魯(エアロ)"だ。
彼女の周りを十数人の部下たちが、
徐々に取り囲んでいく。

"絵亞魯"のリーダー格である女は、
バイクに乗りながら、
不機嫌そうに言った。

——ドドッドッドッドッド

降りしきる雨音に、
バイクと心臓の音が合わさり、
なぜか苦しく感じる。

「—どけ、
 今はお前の相手はできない」


するとレンの後方から、
眩しい光と共に
激しいバイク音が聞こえた。

——グォン!!ズドドドドド!!

「オラ!轢くぞ、テメェら!」

!?——グギャギャギャギャ!!!

リゼが駆けつけたのだ。
"絵亞魯"の隙間から、
割って入るリゼ。

「しょうがねぇな……。いけ!」

状況を即座に読み取ったリゼは、
彼女に強く言い放った。

「……恩に着る。」

レンは遅れを取り戻すように、
バイクのアクセルを強く捻り、
拘置所へ到着した。

TOKYO第二拘置所

降りしきる豪雨と闇夜のおかげか、
警備が少なく、TOKYO第二拘置所に
近づくのは容易だった。

「———『ミント』」

レンが囁き、
拘置所の外壁に手を当てると、
大型の白い鳥のNFTをミントした。
体長は2メートルほどもある。

……こんな雨の日でなければ、
その羽は月夜に照らされ輝き、
とても美しいのだろう。

レンは胸の辺りから、
銀色のデジタルチップを取り出し、
右手に優しく握った。

——トプン。

剥製のように動かない白い鳥。
その首筋に手を触れると、
彼女の手はまるで、
水に入れたかのように吸い込まれた。

レンは銀色のチップを
そっと右手を開いて離した。

これは "ダミーチップ" といい、
ミントしたNFTと
自我を結びつけるための
貴重な代物だ。

「——『コネクト』」

すると、白い鳥の目は
エメラルドのように緑に輝き、
針のように鋭い羽毛も、
雨風で動き始めた。

ダミーチップが、
いわば「NFTに命を宿した」のだ。

白鳥型のNFT「ティエン」

「——ティエン、頼む。
 失敗できないんだ……」

レンの声は静かだったが、
同時に覚悟も含んでいた。

ティエンという名の白い鳥は、
レンを見つめ小さく頷き、答えた。

「ついに……だな」

どこにアオイがいるか見当がつかない。
しかし、時間は限られている。

明日の朝方には、
処刑場まで移動させられるだろう。
そうなれば、きっと救助は困難になる。

(……もし失敗すれば、
 確実に一緒に処刑されるだろうな)

ティエンは、
レンの表情から全てを察した。
だが、あえて触れずに
彼女の背中を押すように言った。

「レン、いいか!
 ワタシは3分が限界だぞ!」

「分かってる……。一気に行くぞ!」

緊張の中、レンとティエンは、
TOKYO第二拘置所内を、
正面から強行突破することにした。

「———!?侵入者か!」

シン日本防衛隊は、
すぐに異変に気がついた。

「フン!
 正面から突破してやるよ」

ティエンはそう言うと
大きな羽で防御しながら
鋭い黒羽で次々と敵を薙ぎ倒した。

——ウーーウーーーウーーー!!

「チッ!」
(……サイレンが鳴ったか。
 コネクトの解除まで、あと1分だな。)


サイレンを聞きつけ、
駆けつけるシン日本防衛隊。

このまま暴れ続けるだけでは、
救出は難しいだろう。

……ピキンッ

「——!?」

レンは一瞬、
何かが共鳴した気がした。

「ティエン、その部屋だ!!」

レンが指差した独房の扉を
ティエンが力ずくで破壊すると、
そこには、なんとアオイの姿があった。

彼女は錠で壁に括られ、
血を流していたが、意識はあるようだ。
身体は動かないが、眼球の動きを確認した。

レンはその様子を見ると、
安堵の表情を浮かべこう言った。

「——久しぶり……だな」

「——だ……れ……?」

アオイの手錠を壊し、
逃げようとするが、
シン日本軍の包囲網は甘くなかった。

「おい、前方部隊!
 今すぐ出入り口を固めろ!」

TOKYO第二拘置所は、
瞬く間に包囲され、
数百人の軍隊に
完全に封鎖されてしまったのである。

逃げ場はない。
外の雷音が聞こえないほど、
強くアラームが鳴り響く中、

三人は籠城する他に
選択肢がなかった。


▼次の話はこちら


◆用語解説

・ファウンダー
リーダー、責任者のこと
・CAW
コーと読む。Twitterの非中央集権ver.
実在するアルトコインの銘柄
・ミント
無機物を具現化することが可能な道具(もとは玩具であり、その改造品)
壊れたら戻らない
ガス代はかかる、もちろんETHチェーン
H×Hのアレがソース
・絵亞魯(エアロ)
樂画鬼の敵対組織であり、中国マフィアの一派。
「HELLMESS(第一話参照)」のような過激派組織を後ろからフォローし、中央集権を奪った後の世界を望んでいる。
・コネクト
特殊召喚。NFTデータをミントで具現化し、ダミーチップを埋め込むと、自我を持って動くようになる。ただし、最大稼働時間は3分。それ以降は自我を保ずスリープ状態になる。一度スリープ状態になると24時間使用不可能。※無機物のミントは壊れるまで使用可能
・ダミーチップ
コネクトする際に必要なチップ。
ミントした無機物に自我を宿すことができる。
人の命(意識)をデータ化したもの。


▼第二話の裏話

いや~。言語化って難しい!

と思って、いろんな方からアドバイスをもらっていたら、楽しくなってきちゃってめっちゃ書き足しましたw

会話と描写がリライト前は少なかったので、多分2倍くらいになったと思います(';')

ミント→コネクトの流れは、中二病心をくすぐるんじゃないでしょうか?前にも書きましたが、イメージは「ハンターハンター」とか「鋼の錬金術師」なので、好きな人にはめちゃくちゃハマると思ってます。

バイクのデザインとか、まだ考えてないですけどBOSO東京やAKIRAあたりからインスピレーションをもらいたいですね~。50年後ですし、電気が主流?もしかしたら、太陽発電になってるかも?もしくは有害なガスをエネルギーに変えられる技術が発展して。。。みたいな。

音も静か目です。シュイーーーーンって音かな?

ちなみにリゼは割とアナログ派なので、バイクはガソリン車ですw
なので、けっこう煩めのブイブイ言わす系に乗ってます。大型ですね。

さて、これ以上話すとめちゃくちゃ長くなるので、ここまでにします。


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と言うことで、今回は以上です。
最後までありがとうございました!




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