キーワードはリジェネラティブ(再生型) 人と地球の「共繁栄」を目指す 濱川知宏さん〈前編〉
8/17放送は、一般社団法人Earth Company共同創設者·最高探究責任者の濱川知宏さん(はまかわ・ともひろ)さんをゲストにお迎えしました。
Earth Companyは、次世代につなぐ未来のために、人と社会と自然が共鳴しながら発展する「リジェネラティブ(再生型)」なあり方を追求されています。
次世代につながる「リジェネラティブ(再生型)」な活動
「Earth Company」は、日本とインドネシアで活動する2つの法人の総称で、日本では一般社団法人登録をしています。人と地球の「共繁栄」を目指し、次の世代にこの地球を渡していこうというミッションを掲げ、約10年前に妻とともに立ち上げました。具体的な事業は3つあり、1つ目は変革力をもつ社会起業家を支援するプロジェクト。2つ目は未来を創る人々を育成する研修プログラムの提供。そして3つ目がおそらく一番ユニークなのですが、インドネシアのバリでリジェネラティブ(再生型)なホテル事業を展開しています。
私たちは「リジェネラティブ」をキーワードに活動しているのですが、日本ではまだあまり聞きなれない言葉かもしれません。しかしながら、今や世界では「サステナブル」と置き換えられる勢いで浸透・普及している言葉です。サステナブルには「持続可能な」という日本語訳がありますが、この言葉からは「さまざまな問題や課題を解決・解消しましょう」「ネガティブをなくしていきましょう」といったイメージが強いように思います。しかし、ネガティブを解消したところで、行きつくところは0(ゼロ)なので、「元に戻す」「元々あったものを維持する」といったところが目標になってしまう可能性があります。
一方、私たちは「0よりもっと上を目指したい」という意識で活動を行っており、そのターゲットは環境だけにとどまらず、地域社会や人権、ウェルビーイングなどさまざまな方面に及びます。これらのターゲットを総じていい状態に持っていくというのが、私たちがイメージする「リジェネレーション」の世界観です。
Earth Companyを始めた当初は海外でもリジェネラティブという言葉はまだあまり使われていませんでした。とにかくこの地球を次世代に繋いでいくんだ、という強い思いを持ちながら活動していく中で、数年前にリジェネレーション、リジェネラティブといった言葉と出会い、「まさにこれだな」と思ったのです。ただ問題を解消していくのではなく、自分たちの子どもや孫たちにもっと良い世界を残していこうというメッセージに強く共感し、私たちの活動の根幹に置くキーワードとして使うようになりました。
リジェネラティブは「再生」と訳されることが多いと思いますが、私たちはもう一つ「共繁栄=ともに繁栄していく」という日本語のニュアンスがとても素敵だなと思っています。人や経済の繁栄はもちろん大切ですが、自然や地球も一緒に繁栄していくというのが一番の理想なのではないか、と思っています。
「最高探究責任者」として自分の強みを発揮する
私が現在使っている「最高探究責任者」という肩書きについてもご説明したいと思います。実は2年ほど前から、この肩書を使うようになりました。日本において一般社団法人の共同創設者という肩書を使うとき、組織をマネージしなければならないという前提を常に感じていたのですが、あるとき自分はマネージされたくないし、したくもないなと気づいてしまったのがきっかけです。
私はリーダーでありながら自由でありたい。とはいえ、外部からオポチュニティー(案件)を持ってきたり、新しいパートナーシップを築いたりする役割を担っており、それをどう表現すればいいだろう、と思った時に「探究」という言葉が一番しっくりくる感じがしました。もちろん団体としてやらなければならないことはありますが、自分の役割として一番強みが発揮できるのは「開拓」や「探究」の部分であると思い、このような肩書きに変えたわけです。
私はEarth Companyをともに立ち上げた妻、明日香と3つの事業で役割分担をしています。彼女は社会起業家支援とホテル事業、私は研修事業のマネジメントをしているのですが、実は彼女も探究が大好きなんです。しかし、現時点で2人ともマネジメントから抜けてしまうとどうしても組織運営が難しくなってくるので、現在のところ彼女はマネジメント業務に力点を置いて仕事をしています。とはいえ「のちのち私も探究したい」と言っていますので、その方向に持っていけたらいいなと思っています。
インパクトヒーローとの出会いが団体創設のきっかけに
私たちは初め、海外でさまざまな国際支援や環境保護活動を行っていたのですが、自分たちで法人を立ち上げるきっかけとなった出来事がありました。当時活動している中で、「この人は本当にすごい!リスペクトできるし、人望も厚く、コミュニティのことを本当に考えているな」と思う人にたびたび出会うことがあったのですが、実はさまざまな理由で支援やリソースが得られず、活動が拡大されていないという現実を知ったのです。
中でも、最も大きな出会いが東ティモールでのベラ・ガルヨスという女性との出会いでした。現在彼女は大統領補佐官を務めているのですが、約10年前は東ティモール初の環境教育施設を建てたいという夢を抱き、地域活動を行っている活動家でした。いよいよ東ティモール政府から支援金が出て、その夢が叶うことが決まっていたのですが、あるとき突然白紙になってしまったのです。その理由は、これまで政府の助成金を女性がもらった前例がなかったことが分かったためというものでした。つまり、前例がないという理由だけで政府からの支援が取り消されてしまったのです。
私はこの事実を知り本当に憤慨して、それならば私たちでできることをしようと方策を考えました。当時ちょうどクラウドファンディングが立ち上がってきた時期でもあったので、これを使ってベラの学校を建てようということになり、ありがたいことに日本円で数百万円ものお金が集まったのです。そのお金でベラの学校を建てることができ、これが私たちにとって初めての「プロジェクト」となりました。
この経験を経て、私たちはベラのような人を輝かせるための支援を行っていこうと強く思うようになり「インパクトヒーロー支援事業」を行うEarth Companyを立ち上げることを決めました。今でも1年に1人を選び、3年間できることを全てやる、という思いで支援を行っています。この活動は完全に非営利活動なので、見返りを求めたり投資として行ったりしているわけではありません。本当にこの人が輝くべきだという思いひとつで動いているのです。
もう一人、私たちが支援しているフィリピン系アメリカ人のロビンという女性を紹介します。彼女はバリに30年ほど住んでいる助産師なのですが、25年ほど前から助産をメインとした医療活動を無償で提供しています。ロビンはバリにバースセンターを開設して、誰にでも優しい自然分娩ができる場所を提供しています。この活動はバリにとどまらず、インドネシア国内で4つ、フィリピンに2つ助産院を拡大しており、現代のマザー・テレサと言われています。ロビンが行っていることは本物の無償の愛を届ける尊い活動で、まさにインパクトヒーローだと思っています。
実は、プロジェクトとしてインパクトヒーロー支援事業を行う前の話なのですが、私たち夫婦は2014年にダライ・ラマ14世から「unsung heros of compassion(謳われることなき英雄)」という名誉ある賞を賜る機会に恵まれました。というのも、私が20代の頃、チベットの高原でNGO活動をしていたときに、たまたまこの賞の事務局の方と知り合いになったのです。その方とは東日本大震災の後に岩手の小学校へ寄付をして復興支援を行うため来日されたタイミングで再会することができました。その際に「ダライ・ラマの賞にあなたたちをノミネートしようと思っている」というお話をいただいたのです。
それを聞いたときは、ただ驚くばかりで、あまりにも畏れ多いため、いったんは辞退の意を伝えました。なぜなら、その頃はまだEarth Companyを立ち上げる前でしたし、当時所属する組織の中でひたすら支援活動を行っている身だったからです。しかし彼は「この賞はこれまでの功績を讃えるだけではなく、これからの活動に期待を込めるという意味がある賞なんですよ」とおっしゃってくださいました。
それに加えて、授賞式イベントがサンフランシスコで行われることになっていたのですが、そこにゲストを一人連れていくことができると分かったことにも後押しされました。それならば是非この賞を本来もらうべき人物であるベラを連れていきたいと思い、賞を受けることを決断したのです。私たちの活動を通じて、ベラに光が当てられたのはなにより嬉しいことでした。
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