#168 Jリーグ30周年記念、最終節ドキュメンタリー①2005年J1優勝争い

Jリーグは30周年を迎えた。
この国のサッカー界はいわゆるビッグクラブが不在と言われがちで、それは賛否を持って語られる。勿論、わかりやすいビッグクラブがいないことがデメリットと化す瞬間もある。だが、そういう群雄割拠の構図はこれまでに様々なドラマを最終節に生み落としてきた。ここではそんな、Jリーグの歴史に残る優勝争い・残留争いの最終節と、そこに至るまでの物語を振り返っていこうと思う。



今回は2005年の優勝争いを振り返る。
この年、Jリーグは2ステージ制からワールドスタンダードでもある1ステージ制へと本格的にシフトした(※1)。優勝争いの結果はこれまでのように半年ではなく、1年のすべてに対してのジャッジが下される。
最後の審判の日となる最終節、前代未聞の5チームに優勝の可能性が残る中、あまりにも衝撃的なドラマの主役となったのは奇しくも同じ土地の名前を冠した2つのタイトルに縁のないクラブだった。これ以上ない歓喜とこれ以上ない絶望……仕組まれたかのように巡り合う運命は、壮絶なクライマックスと共に両者の運命を分ける事になる。

2005年のJ1チーム
鹿島アントラーズ(前年6位)
浦和レッドダイヤモンズ(前年2位)
大宮アルディージャ(前年J2、2位)
ジェフユナイテッド市原・千葉(前年4位)
柏レイソル(前年16位)
FC東京(前年8位)
東京ヴェルディ1969(前年9位)
川崎フロンターレ(前年J2、1位)
横浜F・マリノス(前年1位)
アルビレックス新潟(前年10位)
清水エスパルス(前年14位)
ジュビロ磐田(前年5位)
名古屋グランパスエイト(前年7位)
ガンバ大阪(前年3位)
セレッソ大阪(前年15位)
ヴィッセル神戸(前年11位)
サンフレッチェ広島(前年12位)
大分トリニータ(前年13位)

※1 初めての1ステージ制という訳ではなく、1996年にも1年だけ1ステージ制を採用した事があった。


①打倒鹿島とガンバの爆走


開幕前に優勝候補の本命と目されていたのは当時リーグ2連覇を成し遂げていた岡田武史監督率いるマリノスであり、彼らには前人未到のJリーグ3連覇(※2)という偉業が懸かっていた。そして王座奪還を狙う磐田は前年の終盤からアテネ五輪日本代表監督を務めたクラブOBでもある山本昌邦監督を招聘し、前年こそ2ndステージで低迷したが、茶野隆行、村井慎二、崔龍洙、そして日本代表守護神の川口能活といった超大型補強を敢行。ここに前年の年間最多勝点を獲得してチャンピオンシップに進出した浦和を加えた3チームが優勝争いをリードし、そこに鹿島と近年の躍進が著しくガンバと千葉がどこまで絡んでいけるか…というのが大方の予想だった。
しかしいざシーズン開幕を迎えるとこれらのチームの開幕ダッシュ失敗が相次ぐ。開幕5試合の時点で鹿島こそ開幕ダッシュを決めたが、ガンバは開幕戦でJ1初挑戦となる大宮に不覚を取ると1勝3分1敗と勝ち切れず、磐田は1勝1分3敗と黒星先行。浦和に至っては初勝利を第6節まで待たなければならない事態に陥った。代わりに開幕ダッシュに成功し、序盤戦の上位陣をリードしたのはFC東京、名古屋、広島といった面々。特にネルシーニョ監督に率いられた名古屋は高卒ルーキーの本田圭佑抜擢も功を奏し、夏頃まで2位の座をキープし続けていた。

しかしその中で鹿島が一歩抜け始めてリーグ全体の構図が「首位鹿島を追う」という形で固まり始めると、開幕ダッシュだけで終わったFC東京に続き、夏頃には名古屋、広島が早くも不振に陥り始めてしまう。それと同時に開幕前の時点で優勝候補と目されていた浦和、磐田が盛り返してきたが、彼らの好調が霞むほどの爆走を見せたのはガンバだった。2ヶ月の中断期間に2連勝で突入すると、再開初戦となったは第13節ではアラウージョが3ゴール4アシストと異常なパフォーマンスを見せて東京Vに7-1で圧勝し2位に浮上。「HOT6」と呼ばれた第13節からの夏場の6連戦で5勝1分…この間、6試合21得点という夏の熱風よりも猛威を奮うような荒稼ぎで鹿島を猛追すると、鹿島が逃げ切るか、ガンバが鹿島をも喰らうか……夏の時点では、この年は鹿島とガンバのマッチレースという激しくもシンプルな優勝争いになると思われた。

※2 後に2007〜2009年に鹿島が達成している。


②ガンバ史上最大の大一番


鹿島とガンバの壮絶になると思われたマッチレースは、周囲の想像よりも早く鹿島が躓く事になる。
第18節を最後に再び1ヶ月の中断期間に入り、再開初戦となった第19節は鹿島もガンバも共に敗れるという波乱の展開となったが、そこからガンバは4連勝を達成したのに対し、鹿島は再開からの5試合を1勝1分3敗という大ブレーキに陥った。第20節と第21節で磐田、マリノスというこれまでのガンバが歯が立たなかったような王者を立て続けに撃破すると、第22節では東京Vに1-0で勝利。同時刻、鹿島が浦和と引き分けた事で、この瞬間にガンバが首位に立った。アラウージョ、大黒将志、フェルナンジーニョという圧倒的な得点力を持つ攻撃トリオに、WB起用されていた二川孝弘や家長昭博が絡む。彼らのポテンシャルをボランチで操る遠藤保仁が最大限に引き出す攻撃的サッカーは衝撃的な破壊力と娯楽性を持ち合わせ、いつしかガンバはいわゆるゾーンに突入したような感覚に包まれていた。

迎えた9月24日の第25節、ガンバはクラブ史上最大の大一番を迎える。
このクラブにとって、これまでそれは大袈裟な表現ではなく、ガンバ史上最大の大一番として多くのファンが認識していたし、2位として挑んでくる相手が鹿島だという事もまた、その昂りに一興を与えていた。


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