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#156 歴史を繰り返し続けるという事〜ありがとうWBC、ありがとう侍ジャパン〜



あれ?WBC観に行ってたの?と言いたくなるサムネイルだが、残念ながら行っていない。
チケット?獲れねぇよあんなの。どうやったら獲れんだ。
サムネの写真はいつぞやに1回だけ行った東京ドームである。よくよく見てみれば観客の服は大体黄色かオレンジ。東京ドームの写真がこれしかなかったというか、これ使っといたらなんとなくWBC行ったんじゃないか感出るんじゃないかという魂胆である。我ながら虚しい。

……冗談はさておき(あんまし冗談じゃないけど)。
今日、WBCが閉幕した。


WBCに興味があろうがあるまいが、この結果を知らずに日々を過ごせる日本人はいないだろう。
優勝…優勝である。


……やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!



今大会、本当に面白かった。
今大会の日本代表は前評判が高かっただけに、そういうチームにのしかかる特有のプレッシャーからは逃れられない。その中で実力を存分に見せつけた東京ラウンド、そしてドラマを味方につけたアメリカラウンド……イタリア戦までは割と安心して見れたが、アメリカでの2試合はほんと、声枯れるかと…。



対戦相手もそれぞれにキャラクターが立っていた。
正直、1次ラウンドは韓国戦とオーストラリア戦以外はちょっとしょっぱい試合にもなるかな、なんて思っていたが…チェコは言わずもがなとして、中国も若い投手陣の才能が光る場面が多かった。イタリアはアメリカで研鑽を積む選手が多く、スコアこそ開いたが気を緩められない試合展開に持ち込まれた。

そして準決勝と決勝である。
「夢なら覚めないで」なんてよく言うが、もし夢ならば一刻も早く目覚めて夢を超えた現実に酔っていたい。全く打てなかった村上の一撃、そして決勝の大谷翔平vsトラウト……漫画としてもやりすぎだろう。しかも監督は栗山英樹だぞ。誰が妄想以外でこんな筋書きを書けるのか。漫画家だってこんなストーリー提出したらボツにされるわ。


ベタもベタだよ。出来すぎだこんなの。
でも結局、ベタはみんな大好きだからベタと言うのだろう。ああ、そうだよ、大好きだよこんな展開。
思えばカタールW杯もそんなこと言ってたわ。




思えば、2021年の東京五輪での吉田麻也の姿を見てから「歴史とは」「伝統とは」を自分なりに考えるようになった。
あの大会…それはカタールW杯にも続く訳だが、吉田の主将としての振る舞いは尋常じゃなかった。それはもちろん本人の人間的な資質と選手としての説得力があってこそとはいえ、プライベートでも親しかった長谷部誠の姿をずっと近くで見てきたところが大きいのだろう。そしてその長谷部も、突然キャプテンを任された南アフリカの地で中澤佑二や川口能活の支えを受けながら主将として成長した。…そういう長谷部や吉田が辿った道を、今の吉田の振る舞いを見続けた遠藤航であったり、板倉滉であったり、堂安律であったりといった選手が次の代表を担う。そうして行く事で歴史は作られ、チームはサラブレッドとして生きることが出来るのだと思う。

今回の侍ジャパンもそうだった。言わずもがな、それはダルビッシュ有の献身である。
ダルビッシュの今大会の貢献はこれまでも散々語られているし、これからも語られるだろう。そして、思い返せば前回優勝の2009年…あのマウンドで雄叫びを上げたのはダルビッシュだった訳だが、当時時22歳だったダルビッシュはあの大会、あのチームでイチローという稀代のスーパースターが代表チームに対してどういう振る舞いをしたのかを若手選手という立場で見つめ、そこからチームが優勝していく軌跡を完遂させた。
もちろん人には個性があり、ダルビッシュはイチローと同じアプローチをした訳ではないだろう。だが、姿勢という意味で彼にとってのその経験は大きな意味を持ったはずだ。そして、今回の年齢層が比較的若いチームの面々は今大会のダルビッシュの振る舞いを全員が見ているし、その記憶を持って次のWBCに挑む。そうして歴史は築かれ、伝統は紡がれる。ファンもその光景に夢を見て感情に浸る。サッカーや野球、そして日本に限らず、「強豪国」と呼ばれる条件はその螺旋を回せる国の事を言うのだろう。



それはWBCという大会にしても同じである。
正直なところ、野球の世界の拡がり具合然り、或いはこの大会自体の少し歪な構造もあって、少なからずケチがつく部分があるところを否定するつもりはない。だが、やはりこういう大会は続ける事に意味がある。たとえそれが一部の人が嘲笑するように「日本だけ」だったのだとしても、どこかで火を燃やし続ける事は重要なのだ。伝統や歴史、ステータスはそれを愚直に続けた後に勝手についてくる。
実際に今回は、WBCの大会としてのステータスが着実についてきた事を感じさせた。アメリカはこれまで、トップオブトップのメジャーリーガーをあまりWBCに出したがらなかった。それが今大会は、投手こそ少なからず辞退者はいたが野手はほぼほぼベストメンバー。そのトップオブトップの中でもトップクラスのマイク・トラウトはこれまで、WBCに参加したアメリカ人選手から国際大会が如何に楽しいかを聞かされていたと云う。そして前回大会(2017年)を辞退した事に後悔の念すら覚えたと語っていた。
それがトラウトが多くのメジャー組に参加を呼びかけた動機にもなっただろうし、トラウトがそういう動きを見せた事は今回のアメリカ代表の編成に不可欠な要素だったのだろうが、トラウトが聞いたような話を聞いて、今までメジャーリーガーに馴染みのなかった国際大会への、アメリカ代表として戦う事への情緒を膨らませた選手は少なくないだろう。これまではWBCに強い興味を持っていなかった選手も、そういう大会の積み重ねがあって…例えば今回の大谷翔平の咆哮であったり、かつてのWBCでイチローやモリーナといったスーパースターが見せた普段のシーズンと異なる表情の意味を肌身で感じ取るようになったのだと思う。

それはヨーロッパにしても同じだ。
これまでは確かにWBCは日本や韓国のような東アジアと、アメリカを中心とした北中米カリブ海地域の大会…という印象の強い大会で、欧州勢で力を入れていた国はせいぜいオランダくらいなものだった。

それが今大会ではイタリアが躍進し、イギリスも初出場・初勝利を挙げた。強烈でポジティブなインパクトを残したチェコは、今大会のWBCまで野球の存在感は希薄だったにも限らず同国で大きな話題になり、チェコ代表のいない決勝戦が行われた時間には「Japan」が同国のTwitterトレンド上位に居続けていたのだ。そして欧州では予選も行われており、野球の印象の強い国ではないがスペインやフランス、ドイツもWBC出場を目指して奮闘している。サッカーファンの視点で言えば、かつてサッカーで日本が辿ろうとした道をスペインやドイツが野球で辿ろうとしているのだと思うと不思議な感慨も増してくる。国としてはマイナースポーツであったとしても、WBCの成長は彼らにとっての目標になれる舞台を保証した事になるのだと思う。


前述した主将の話と同じだ。歴史は繰り返すとはよく言うが、歴史を繰り返す事が歴史を築くのである。
若手投手が多く経験を積んだ中国は2026年大会こそ自分達の本番だと思って邁進するだろうし、韓国は日本に離された差をどう埋めるのかの議論から尽くそうとする。オーストラリアもアメリカに進む為に足りなかったものを、今大会の成果の上にどう積み上げるべきかを次に向けて考える。チェコは夢の続きに夢を重ねようとし、イタリアはベスト8という躍進を「欧州の野球を牽引したい」と決意を新たにした。
日本にとっての奇跡はメキシコにとっては悲劇だった事だろう。サッカーで言えばいつかの日本がベルギーに屈したあの日のように、メキシコはこれから、あの日届かなかったたった3つのアウトを追い求める3年間がこれから始まる。
アメリカだってWBC王者が日本のままであってほしいなんてこれっぽっちも思っていないはずだ。そして何より、トラウトの数々のコメントに表れていたような国際大会のやりがいがそのチームメイトへ、その後輩へと語り継がれて行く。サッカーのW杯でもそうだが、大会のステータスはそれを繰り返す事で生まれるはずだ。
確かに単体で見ればWBCはまだまだW杯に及ばない規模の大会とスポーツなのだと思う。だが過去の大会から通ずるストーリーとして見た時、そういう歴史の奥深さ、味わい深さをより強く感じた大会だった。それはサッカーファンとしてカタールW杯に結びつく軌跡も見てきたからこそなのかもしれないが、それだけにどんなスポーツも、その原点にはきっと似た感傷が宿るように思う。


今回の代表メンバーの多くは少年時代にWBCを見た選手達だ。WBCが積み重ねた歴史は一つのサイクルを巡り、その境地に辿り着いた。
何年後かには、今大会の侍ジャパンに憧れた選手達がWBCのグラウンドに立つ。少年時代、11番を背負った男のスライダーとガッツポーズを見た少年達が、14年の時を経て11番を背負った男とシャンパンをかけ合ったように………。

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