逆転合格した話 (後編)

前編 (まだ読んでない方はこちらから)に続き、高校に入学してからの話です。



東大への受験を決めて僕は地元の高校へ進学。3年間の受験生活が始まった。


とは言っても1年生からエンジン全開でいくわけでもなく、とりあえず高校生活を普通に過ごした。運動部にも入り、文化祭でバンドもやり、それなりに充実した高校生活を送っていた。

成績の方も相変わらず上位1割くらいには入っていた。ただ、中学の時とは違って危機感は常にあった。自分が目指すところの壁の高さは十分にわかっていたので、地元の高校でなら自分がトップじゃなきゃダメだ、と感じていた。

有名予備校の難関模試なども積極的に受けた。常に東大理一を書き続けたが、平均して大体B判定。悪くはないかな、と思っていた。


そして高1も終わりになり、東大目指そうかな、という人がなんとなく固まってきた。僕のクラスには理系で4人、文系で1人、東大志望の人がいた。こんな地方の高校なのに周りに同じ目標をもつ仲間がいたこと、自分は恵まれていたなあと思う。




高校2年生になった。正直、あまり勉強はしていなかった。1年を経て自由な高校生活に慣れてしまったのだろう。部活してゲームして寝る。そんな生活をしていたように思う。模試なども流れでいろいろ受けていたが、みるみる成績は下がっていった。他の東大志望の人たちと明確に差を感じ始めたのもこの辺りだった。2年の終わり頃には、良くてC判定。それくらいだった。
このままじゃヤバイな、なんとかしなきゃな、と思いつつも、なかなか自分を変えられないまま3年生になってしまった。




3年生。6月に部活も引退し、いよいよ本格的な受験生活が始まるという頃。模試でDやEを見ることにも慣れ、現実的に受かる気がしないまま、それでも必死に勉強していた。
親もいろいろ対策を考えてくれて、いろいろな塾に行かせてくれたり、時には大阪や兵庫まで出て授業を受けに行ったりした。1年を通じて10以上の塾に体験授業に行った記憶がある。結果的に、国語はここ、数学はここ、というように教科ごとに県内の塾に通うことになった。計4つ。



しかし、どれだけ塾に行こうが学校に行こうが自分がやらないと何も始まらない。それが受験勉強というもの。高3の夏、いろいろ試行錯誤しながら受験勉強をしつつも、なかなか成績が上がらない。自分は今何をするべきなのだろうか。ただ焦りと不安だけが大きくなっていた。

現実逃避のためか、クラスの文化祭準備を人一倍頑張った記憶がある。たぶん夏休みの累計勉強時間は、学年が上がるにつれて減っていたように思う。僕はかなり精神的に追い込まれていた。自分が東大理一なんて書き続けているからこんなに苦しくなっているんだ。そう思ったこともあった。



でも、なぜか僕の頭の中には、

志望校を変える

という選択肢は全くなかった。


変えると過去の自分に失礼ではないか。変えるという選択肢は今の自分には許されてないのではないか。ここまできたら当たって砕けるのが筋ではないか。



結局僕は3年間、あらゆる場面で要求される「第一志望」に「東京大学理科一類」以外の言葉を当てはめることは、一度もなかった。





そんなわけで、ろくに勉強もしないまま夏が終わり、いよいよ周りの空気もピリピリし始める時期。
9月末ごろだっただろうか。夏の模試の結果も最悪でかなりメンブレしていた時、1人の女の子に元気付けられた。他校の同級生。彼女ではない。唐突に出てきたのもそれはそうで、塾でちょっと知り合ったぐらいの人だ。

でも、彼女から「応援してるよ」って言葉をもらった時に、僕は思わず泣いた。久しぶりに真っ直ぐな言葉をもらったからだと思う。確かに、日々を生きる中で「頑張ってね!」「絶対受かるよ!」なんて素直な応援の言葉をもらうことはあまりなかった。本当に嬉しかった。

その日から僕は、自分のためじゃなくて応援してくれてる誰かのために頑張ろうって、そう思いながら勉強を始めた。




ただ、それ以降も模試の成績は良くなかった。1回だけAが出たこともあったが、あとは基本C以下。Aはたぶんまぐれ。それでも前に進むしかなかった。

冬になりセンター試験が近づいてくると、そちらの準備もしないといけない。センターも決して安心できる状態ではなく、手を回す必要があった。年末はほぼセンターの勉強だった。



そしていよいよセンター試験当日。運がいいことに、クラスメイトと隣同士で受けることができた。おかげでとてもリラックスして受けられた。

自己採点の結果、最高点とはいかなかったものの、悪くない点数をとることができ、無事二次試験に意識を向けることができた。数学と物理が満点だった。



1月末、最後に受ける東大形式の模試があった。めちゃくちゃ大事な模試であることは言うまでもない。なので僕は今でも、この模試の偏差値や志望校判定を明確に覚えている。




偏差値: 47.2    E判定


少なくとも高3の間で、下から3番目までには入っているであろう結果だった。何度も何度も見返したからこそ数字をハッキリ覚えているんだと思う。
入試1ヶ月前のとびきりのE判定は、一周回ってあまり凹まなかった。もうただ笑うしかなかった。確か合格可能性は5%とかだったので、その5%にかけてみるかと決めて、勉強を続けた。

「とりあえずぶつかってみて奇跡が起きるのを信じよう。」

そう思って最後1ヶ月、がむしゃらに努力した。



今思えば、最後の模試でA判定とかが出てしまうよりよっぽど良かった。2月は死ぬほど頑張ることができた。二次試験当日は、これでもかってくらいアドレナリンが出ていた気がする。灘受験のことも少し思い出していた。

結果的に、僕は見事一発で東大理一に合格できた。ネットで番号を見つけたときは泣き叫んでいた。






さて、話はここで終わらない。むしろここからが僕の逆転合格の本質。


見事合格した旨を、親から始まり学校の先生方、塾の先生方、友達に報告した。本当にたくさんのおめでとうをもらった。そして、何人かからこう言われた。


「まさか受かるなんて思ってなかったよ!」


もちろんこの言葉だけではないが、話していくうちに僕は気づいた。
自分が本気で受かるとは思ってなかったんだな、と。特に、同じ東大を受けていた友達 (ちなみに理系は4人全員合格した)は素直に「正直落ちると思ってた!」と言ってくれた。全くもって正論。

本当に合格するのを願っていたのは、自分と親、そしてあの女の子くらいだったように思う。そうでなかった人を悪く言うつもりも全くなくて、僕を育てて送り出してくれたことにとても感謝している。



ここまできて初めて僕は

普通は受かるはずのない人間が合格した、奇跡が起きたんだ。

と自分の逆転合格を噛み締めた。


僕自身この合格は本当に奇跡というか、神様が味方してくれたんだなと思っている。正直実力よりも運の要素の方が多いはず。きっと、3年間変わることがなかった思いの強さで受験に勝ったんだと思う。ありがとう神様。





『逆転合格した話』は以上です。
拙い文章でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございました。