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平成最後の強盗バトル #2


 路肩に止めたバンの車内で、おれたちは各自の端末を使ってニュースを追いかけていた。

「東京都内の銀行で強盗 犯人は逃走中 白昼堂々の犯行に……」

「犯人は国籍不明、男の四人組で、二台の黒いバンに乗って逃走中。現在警視庁が行方を追っているとのことです。近隣の学校では集団下校が……」

 各社ニュースサイトのトップは強盗一色に変わり始め、TVも続々と特別ニュースに切り替わった。SNSのトレンドも急上昇。どの媒体も内容は同じ ――「平成最後の大強盗現る!」―― 完全に名前を盗られた。というか、向こうのほうが後にやったんだから、名実ともに向こうが「最後」ではある。

 大金パーティから一転、思わぬ展開に沈み始めた車内の空気を打ち消さんと、派手な金髪の荒木田が後席から熱弁を振るう。

「いやいやいや、俺らがニュースになってないのは俺らの強盗が完璧すぎたからじゃん? 下手したらまだあの銀行の連中は気づいてないかもだぜ? 仮にこっちがすぐバレるぐらい派手にやってたら、今頃ニュースは俺たちの話だらけで、連中は埋もれてたって――」

「うわ、被害総額は一億超えの見込みだって。僕らの二倍以上だね」荒木田の隣で、大房が大柄な体を丸めてタブレットの画面に注目したまま言った。これで本人は独り言のつもりだから質が悪い。荒木田は勢いを減じながら、必死に車内を鼓舞しようとする。

「それでも先に報道されてたらその分の扱いはあっただろ! あー……『元祖・平成最後の大強盗!』、的な」

「元祖で最後って意味わかんないですけどね。真の『最後』の前座って扱いになるだけでしょう」

 助手席の月本が冷たく言い放ち、それがトドメになった。月本は言葉に詰まった荒木田から目線を外し、スマホをダッシュボードに放り投げ、長く息を吐く。

「まあ、『平成最後』も『大強盗』も完全に見知らぬ誰かさんのものになっちゃいましたね」

 大房がタブレットを閉じ、難しい顔で言った。

「向こうに注目集まってる分、僕らが逃げやすくなったとも考えられるけど……」

 曖昧に相槌を打ちながら、おれは天井を見上げた。「平成最後の大強盗として歴史に名を残す」という大前提は崩れてしまったが、おれたちの手元には十分な金がある。この際「平成最後の大強盗」の名誉は別のやつにくれてやっても別に構わないはずだ。
 突然現れた大強盗に、名誉と金を……そこまで考えてから、ふと”天啓”が降りてきて、いつしかおれは満面の笑みを浮かべていた。

「うわ、何笑ってるんですか。気持ち悪い」

 あからさまに軽蔑した顔を向けてくる月本の方にずいと身を乗り出す。

「いいか、連中より後に強盗すりゃあ「平成最後」は取り返せるし、額で負けてるならあと五千万、いや一億ばかり盗んでやりゃあ額面でもこっちの勝ちだ」

 三人の目線が一斉にこちらを突き刺す。「おいおいおい、いきなり何言ってんだよケンちゃん」「今から別の銀行を襲うなんて、準備も下調べもしてないし」「そもそも一億なんて、普通の銀行には……」言いながら、全員の表情が笑みに変わっていった。

「そういうことだ」おれは頷き、キーを回してアクセルを踏み込んだ。「『平成最後の大強盗』様の稼ぎを強盗してやろうぜ」

【続く】

Photo by Jens Johnsson on Unsplash

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