平成最後の強盗バトル #3
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「で、結局どうやって連中を捕まえるつもりなんですか?」
「それなんだけど、どうも向こうの方から出てきたみたいだよ」
大房の声に、おれは内心で喝采を送った。ここで実はまだノープランだと言い出したら(主に月本からの)苛烈な攻撃は免れなかっただろう。
「どういうことだ?」「これ見ればわかるよ」後席からタブレットが差し出される。またよそ見運転かよ。ちらりと横目で画面を確認し、すぐに釘づけになった。
それは大量の万札を背景にピースサインを決めて自撮りする男の写真が添付されたツイートだった。
顔は加工アプリでファンシーな雰囲気に隠されており、ツイートの内容は「やば笑 ほんとに1億ゲット😂 地元の仲間みんな天才だから大好きだー!!!😭」という具合。「嘘だろ」
「こいつら、『平成最後の大強盗』ってアカウント名で有名人とか警視庁の広報アカウントなんかに挑発リプライ送りまくってる。他にもインスタとかFBにも写真付きで投稿してて、フォロー爆増中だよ」
まさかネットのウケ狙い? おれたちよりも不順な動機で強盗するアホが居たとは。そんな奴らに額で負けたのかと思ったが、あまり深く考えないことにする。
「で、こいつらがアホなのはいいとして、アカウントから居場所を特定とかできんの? 肝心なのはそこだろ?」
「お、気になる? こういう時はExifっていうのが……」
荒木田が顔を強張らせたが、時すでに遅し。ノートPCを立ち上げつつ始まってしまった大房の技術トークを、おれは素早く意識から追い出した。
しかし平日の昼にしては車の流れが鈍い。ついにはほとんど動かなくなったので、車の窓から軽く身を乗り出し、前方を確認する。
遠目に見えたのは車道を封鎖するように横向きに並んだ複数台のパトカー。そして、その封鎖線を勢いよく突破してこちらに向かってくる黒いバンだった。
おれは一気にハンドルを切り、周りの車にぶつけながら、強引に車を反対車線へ向かわせる。
「ちょっと!いきなり何やってんですか!」
「奴らだ!荒木田、ちょっと札束用意しろ!」
「は!? わかった!」
四方八方から飛んでくるクラクションと、車体どうしがぶつかりパーツが壊れる破壊音の中、どうにか反対車線へ車体が抜け出ると、ちょうど目前を黒いバンとパトカーが高速で通過していった。
「うわ、絶対アレじゃん!? 僕が調べてたのは何だったの!?」
「何でもいいから追いかけ……!」言い切る前に助手席のドアを強く叩く音がして、ビクリと月本が体を縮めた。「おいテメエら何考えてやがんだ!金払え!」
怒り心頭といった様子のドライバー達が車の進路を塞ぐように集まり、ぎゃあぎゃあと騒ぎ始めた。負けじと声を張り上げる。
「うるせえ!言われなくても金ならくれてやる!早いもの勝ちだぞ!」とおれが叫んだのを合図に、荒木田が百万ばかりの札束を窓から投げ上げた。
万札の群れが空を舞い、それを見た渋滞内のドライバー達が次々に運転席から飛び出してくる。負けじと妨害ドライバー達も走り出し、あっという間におれたちを邪魔するものはなくなった。
「いいぞ、いよいよ大強盗らしい振る舞いになってきた!」おれは車を急発進させ、パトカーの後を追う!
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