平成最後の強盗バトル #4
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奴らのバンが大きく蛇行し、パトカーに衝突した。大きくバランスを崩したパトカーが、並走する別のパトカーに突っ込んで、二台は絡み合ったままガードレールに勢いよく追突する。おれたちを載せたバンはその脇ギリギリのところを走り抜け、残った一台のパトカーの背後につけた。
「そんでそんで、ここからどうするよ?」
「ひとまずあのパトカーを潰す。その上で奴らに共感する仲間のフリをして近づく」
「そう上手く行きますかね?」
どのみち、警察と仲良く一緒に強盗を捕まえましょうという訳にはいかない。アクセルを床まで踏み込んで思いっきり加速し、パトカーと並走する。「横のバン、何のつもりか知らないが――」ハンドルを一気に切って、車体をぶつける。
衝突の衝撃に耐えながら、ハンドルを曲げたまま突っ走り、相手を歩道際まで押し出していく。パトカーが減速する間もなく勢いよく縁石に乗り上げ、空中へ跳ね上がる。
サイレンを響かせたまま十秒近くも空を舞った白黒の車体が、横転しながら地面に墜落して車体をひしゃげさせ、完全に停車した。車内から快哉の叫びが上がる。
「今のはハリウッド級だったな!」
「うわ、あいつら今のを早速動画でツイートしてるよ。スタント料を徴収しに行かなきゃ」
言っている間に、奴らのバンが軽く減速し、こちらの側面につけてきた。スモーク付きのウィンドウが下がり、マスクにサングラス姿の男が顔を出してこちらに叫んでくる。
「アンタら派手にやるじゃねえか! 今の動画、一瞬で超伸びてて通知が止まんねえ! 新記録だ!」
「君らの動画のネタになったなら何よりだよ! おれたちはファンなんだ」
「ファン? 俺らにも随分熱心なファンが付いたみたいだな!」
ゲラゲラと笑う声。思った通り、随分呑気な奴らだ。
「なんつって、どうせカネが目当てなんだろ!」そうでもないかも。思った瞬間、奴らのバンがこちらに向かって一気に進路を変えた。咄嗟にブレーキを踏んで体当たりを回避できたのは奇跡と言っていい。
クラクションを鳴らして走り去る黒いバンの窓から突き出た腕が、こちらに向けて中指を突き立てている。「クソ野郎……!」悪態をつく間にも遠ざかっていく黒いバンに、横道から高速で飛び出してきた白いハマーが突っ込んだ。
強烈な突進を受けた奴らのバンはそのまま横転し、激しく火花を散らしながら道路を滑り、ガードレールに突っ込んでようやく動きを止めた。
「今の撮ってたらさっきのツイートといい勝負になったかも」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
四人で慌てて車から降り、横転したバンに近付こうとした途端、こちらの進路を遮るように白いハマーが停車した。助手席のドアが開き、大柄なスーツの男が現れる。「動くな」その手には拳銃が握られ、銃口がこちらを睨んでいた。
「お前たちもこいつらの金を狙っているんだろう? 残念だが金は我々のものだ」
どうやら、第三の強盗のご登場らしい。
Photo by Matt Popovich on Unsplash
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