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【読書】『はてしない物語』ミヒャエル・エンデ

これは魔法の本だと、半ば本気で信じている。

この本が広げてみせる想像力の翼に片足を乗せたが最後、あっというまに高く高くさらわれてしまう。
竜や魔物、虚無の果て、そして読者自身を写し出す鏡の前へと、この翼は案内する。

目のくらむような冒険を主人公と共にするうち、わたしたちは知らず知らずに、一人の人間の人生を生きることになる。

主人公の少年は、単に成長するのではない。
彼はこの冒険を通じて自分自身と向き合うことで「老成」する。
それこそ死の淵ぎりぎりまで、老成する。
人生がもたらす絶望と苦しみを前にして、彼は少年のまま老い、成熟していく。
そして彼と共にこの物語世界を歩むわたしたちもまた、そのプロセスを体験することになる。

この「他者の人生を体験する」という現象は、優れた物語だけが持つ効能だ。
まるで魔法みたいだと、いつも思う。

そしてこの魔法の真骨頂、なんといっても圧巻なのが、この旅の終わり。
絶望と苦しみを通り抜けた先で、この魔法の書は、「生きる喜び」へと確かに読者を送り届けてくれるのだ。

老成の先、苦しみを理解したあとに生まれる、「いきる」ということの爆発的な喜び、圧倒的な幸福感。
それはもう、喜びの泉できらきら光る水を裸のまま全身に浴びるような感覚だ。

それは生まれた瞬間から知っていた感覚だけれど、主人公と共に一度はその喜びを忘れる体験をしたわたしたちは、再び戻ってきたその感覚を、二度と簡単には手放さないようになる。

こんな魔法の本を書けるなんて、エンデは稀代の天才だと思う。

『はてしない物語』ミヒャエル・エンデ


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