【読書】『お探し物は図書室まで』/明日が少し楽しみになる本
青山美智子さんの小説は、いつも優しい。
何気ない言葉で心の中にするりと入り込み、蓋をしていた気持ちに優しく触れて、そっと開いてくれる。
青山さんの言葉に導かれて、きつく閉められていた蓋が、ほんのすこし、開く。
一度開いた蓋からは、止めようもなく自分の気持ちが溢れ出る。
ほんとうは、こうなりたい。
ほんとうは、こう言いたい。
ぎゅっときつく蓋をしていた箱の中身は、
たくさんの「ほんとうは、こうしたい」。
そこから溢れ出たたくさんの本音の中には、自分でも気づいていなかったものもある。
ああ、わたしはほんとうはこうしたかったんだ。
自分の気持ちに驚くと同時に、不意を突かれて、涙がたくさん溢れた。
この本は、年齢も性別も違う5人の登場人物の、それぞれの視点で紡がれていく連作短編集だ。
その5人の人生を優しくつなぐ役割をするのが、地域のコミュニティハウスの中にある小さな図書室。
(ここに出てくる風変わりな司書が、それはもう格好いい。)
目次は、こんなふうだ。
これまで歩んできた道も今の立場も、まったく違うそれぞれの登場人物。
けれど不思議なことに、どの人の中にも、わたしと同じ気持ちがあった。
「ほんとうは、こうしたい」という思い。
そしてその気持ちをかき消すのをやめて正直になったときの、喜び。
体の奥から生きる力が湧いてくるような感覚。
それまで抑え込んでいた「ほんとうは、こうしたい」という自分の気持ちを認めたとき、たくさんの涙と一緒に心が楽になって、自然と心が前を向く。自分の「こうしたい」をコンパスにして明日を生きてみようと思える。
第三章に、元編集者で今は子育て中の女性の、こんなセリフがある。
「ああ、私は本を作りたい。
明日が少し楽しみになるような、自分の知らない気持ちと向き合えるような、そんな本を世に出したい。」
わたしにはこの言葉は、青山さんの書く小説そのものを表しているように思えた。
明日が少し楽しみになる本。
自分の知らない気持ちと向き合える本。
この本は、まさにそんな本でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ素敵な読書体験を!
※書影は版元ドットコム様よりお借りしています。
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