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「結局、ウナギは食べていいのか」を読んで

ネットをしていたら、絶滅危惧種であるウナギの多くは不適切なかたちで採捕されたものと書いてあって、ウナギ好きの自分としてはどういうことなんだろうと思い、いろいろネットで捜し物したのちに行き着いたのが表題のこの本。

良くまとまっているなーと思う。

そもそも知らなかったのだけれど、ウナギってマリアナ海峡近くで産み落とされ、黒潮にのりながら成長し、東アジア近海でシラスウナギとなって水揚げされていたのか。このシラスウナギが養殖場で養殖されウナギとなって、スーパーだったり、牛丼屋に並ぶのか。

そこでとっ捕まえられなかったウナギは川で成長して再び太平洋に出て南下し、マリアナ海峡で卵を産むというのが自然の流れ。一生ですごい長旅を送っている生物なんだなと。

そんなウナギが3つの要因で減少しているのではないかと本書では書いています。
1 過剰な漁獲
2 成育場環境の劣化 
3 海洋環境の変化

1の過剰な漁獲を防ぐために東アジア各国は養殖に使うシラスウナギに使用できる上限量を設定しているのですが、上限量の半分程度しか利用されていない状況にあるようです。そんなにウナギがいないから。そのため各国の漁師がシラスウナギを事実上取り放題であると。

そもそもウナギの生態はよくわかっていない部分も多いため、科学的に適切な上限量を定めることが難しいのだそう。そういう意味においては、天然物の成人したウナギは減っているようだけれど、回遊に乗ってくるシラスウナギについては漁獲できるサイクルがあるので、みなさん幸運にも漁ができる。

ウナギは絶滅危惧種に認定はされているけれど、条約付属書Ⅱ相当。ワシントン条約では付属書Ⅱ相当であれば、種の存続に悪影響を与えない範囲での商業的な国際取引は可能ということ。つまり、持続可能であればいくらとってもよいとのこと。そうっだのか。

本書によるとウナギを増やすためには1過剰な漁獲をやめるだけでは駄目で、2成育場環境の劣化、3海洋環境の変化に対する対策も必要であると本書はとく。現在この部分も不明な点が多いようだ。

さて、国内のウナギ漁に目を転じると「密漁や密売、密輸などの不正が横行し(静岡新聞 2021.6.30)」ている状況にあるといいます。どういうことなのか本書に沿って我が国のシラスウナギの流通を見てみたいと思います。(漁についての制度とか、法改正等の解説については、この静岡新聞の記事も良かったので参考にしてください。)


シラスウナギの捕獲は都道府県が許可を出す許可制になっていて、県内でとれたものは県内の指定業者に決められた価格で販売しなければいけないことになっているケースが多いそうです。

このような制度ができた背景としては、シラスウナギがまだ安かったころ漁獲したウナギは必ず買い取るという保証を与えることによりシラスウナギの供給を安定させるためだったのですが、シラスウナギが高騰してしまった今やシラスウナギを指定業者へ安く買いたたくための制度に変化してしまったそう。

捕獲業者としては安く買い取られるより、規則を破って高値で別の業者にシラスウナギを売った方がいい。養殖業者には複数の流通業者を経由して、シラスウナギは供給されるため、捕獲業者は誰だかわからない。養殖業者は養殖量の上限さえ守っていれば良いから、これを買い取る。これにより、養殖量の報告よりも捕獲量の報告があきらかに小さくなってしまうことらしい。これが不適切な漁獲が増えてしまうからくり。

水産庁もこの状況については現在対策をしているよう。下記のページの「うなぎをめぐる状況と対策について(2021年7月)」のスライドp.17に具体的な対策方針が記載されている。pdf全体は本書を読んだ後に目を通すと良いと思う。

とざっくり、本の気になったところだけまとめてみました。本の一部分の紹介なのでもっといろいろ知りたい人はお買い求めください。以下は自分の感想です。

まず、シラスウナギの水揚げ量の適切な上限を決定することが、急務ではないかと。来年いきなり絶滅するとかはないと思うけれど、上限量の根拠がしっかりしたものじゃないと何を持って取り過ぎている、取り過ぎていないなんてわからないのでは。

そのためには、ウナギの生態に関する研究は大変重要なものになるだろう、漁獲量決定のみならず、生育条件や、環境の変化に対する新たな知見がなければ、今後安定的にウナギが食べられることはないだろう。

最近、青魚の漁獲量も軒並み落ちている状況があったりする、おそらく乱獲とか環境の変化とか原因は似たようなものではないかと思う。適切な科学的な知見をもとにした水産資源の管理が持続可能な漁業を可能にする。

また、流通について、トレーサビリティー的な機能を持つ認証制度を作るのが良いのではないかと。そうでもしない限り、訳のわからない漁獲が横行し持続的なウナギ漁なんて成り立たなくなってしまうのではと。第8章でイオンにおける、MSC、ASC認証を目指すというとりくみが紹介されていた。この取り組みが他の企業にも広がって欲しいと思う。

自分がウナギが好きな理由はEPA、DHAとともにビタミンB1が豊富に含まれている点だ。つまり青魚と豚肉の良いところを一緒にとっているようなもの。自分の肉体と精神の維持のために欠くことのできない食べ物。持続的なウナギ漁のために官民および学が一体となって取り組んでいって欲しい。

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