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【日本の良さが感じられる絵本】 『十二支のお節料理』『十二支のお雑煮』

絵本作家の川端誠さんは、1982年に『鳥の島』でデビュー後、もうすぐ40年をむかえられます。その間、「落語絵本シリーズ」や「風来坊シリーズ」「お化けシリーズ」など多くの作品を生み出してこられました。川端さんの作品の多くに共通するのは、日本の暮らしや風土を大切にしたいという思いです。
そんな思いがつまった『十二支のお節料理』と『十二支のお雑煮』について、川端さんから寄稿いただきました。

川端 誠:1952年、新潟県高田市(現・上越市)生まれ。絵本作家。
作品に『鳥の島』(第5回絵本にっぽん賞受賞)『ぴかぴかぷつん』『森の木』『地球をほる』『槍ヶ岳山頂』『十二支のどうぶつ小噺』「お化けシリーズ」「野菜忍列伝シリーズ」(BL出版)、「落語絵本シリーズ」(クレヨンハウス)、『りんごです』『バナナです』『いちごです』(文化出版局)など多数。制作の裏話などのトークをはさんだ、自作絵本の開き読み「絵本ライブ」や講演会を、全国の図書館、小学校などで行う。

病気からの復活


『十二支のお節料理』の初版は1999年でした。2000年の正月に間に合わそうと作ったのです。ところがこの時、僕の右手が不調を起こし、思うように動かなくなっていました。そして制作終了後に脳神経科にかかったところ「書痙(ジストニア)」という病気で、現代医学では治らないと言われました。

右手がだめなら左手で描くしかありません。2000年より16年間で28作を左手で制作してきました。そして2015年、某大学病院で脳内の外科手術で「書痙」を治す手術が行われていることを偶然知ったのです。その年の11月4日に手術を受け成功し、右手が復活しました。

右手が復活したといっても、16年間使わなかったのですから、急に上手く動くはずはありません。絵の具作品の5作を4年かけて作り、そろそろ版画も大丈夫だろうと『十二支のお雑煮』の制作に取り掛かりました。左手で版画を彫ることは出来ません。治らないと言われていた病気が治り、まったく諦めていた作品を作ることが出来るのです。


日本の食文化を絵本に


絵も文も黒線部分はすべて版画。3か月間彫りつづけた。

お節料理は暮れの料理で、お雑煮は新年の料理です。ふたつそろって暮れから新年に至る、日本(この風土)の家庭のもっとも大切な食文化を表現することが出来るのです。その喜びはひとしおでした。

お雑煮は、年神様を迎えるために、暮れにお供えをしたお餅や地元の食材を鍋で煮込み、神様と同じものを食べて、一年の力をさずかろうとするものです。ですから、お正月の祝いの膳の主役はお雑煮です。

お雑煮を作る火を大切にするために、他の煮炊きをしないようあらかじめ作って重詰めにしたもの、これがお節料理です。ですからお節料理は暮れの料理で、お雑煮は新年の料理というわけです。

お雑煮は地元の食材を使うことから、地域性がはっきり表れます。餅もおおざっぱに言うと東日本は角餅で西日本は丸餅です。焼いて入れたり煮たり、汁は味噌仕立てかおすましか。それに「我が家雑煮」という言葉があるように、各家庭でそれぞれの家に伝わるお雑煮があるのも楽しいですね。お節料理もお雑煮も家庭料理の代表と言っていいでしょう。

『十二支のお節料理』『十二支のお雑煮』制作過程


32ページの絵本ですので、扉と呼ばれる第1ページ以下、十五画面(見開きが十五)で出来上がっています。最後の32ページに絵が入ることもありますが、両絵本とも入りません。

扉と十五画面にどのように絵を配っていくか、これが絵本を作る最も肝心なところです。十二支ですから一画面にひとつずつ入れていくと残りが三画面。これですと、始まりと終わりでストーリーを語ることは出来ません。そこで一画面の中にふたつの十二支の動物を入れることにしました。『十二支のお雑煮』では始まりのストーリーを語ったあとの第4画面は「子」と「丑」。第5画面は「寅」と「卯」という具合です。

「ねずみ」と「うし」で一画面、次の画面は「とら」と「うさぎ」がつづく

このままいくと画面が単調になってしまいます。そこで見開きでひとつの動物を入れる画面を設けました。5番目の「辰」は架空の動物であり別格感がありますので、見開きでいくことにしました。すると最後の亥は1ページになり、隣のページが開いてしまいます。そこでここも見開きにして、最後のストーリーにつなぐことが出来ました。

広がりのある「たつ」の画面(第6画面)。
始まりのストーリーに扉と三画面、各動物に七画面、終わりのストーリーに五画面の構成。


さて画面が決まり、出版社のGOサインが出ますと原画に取り掛かります。

まず正確にトレッシングペーパーに下描きを描いていきます。文字も版画ですのでこれも正確に書きます。そしてこれを裏返してコピーをします。版画ですので裏返っていなければいけません。

そして彫るゴム版ですが、まずこの絵は上下左右の周囲に1cmの余白を持ったケイ線(枠組み)の中に描かれますので、まずそのケイ線をカッターで正確に切り出さなければなりません。かなりの枚数ですので、これは気を使う厄介な作業です。

次にこのケイ線の中にコピーした絵をガムテープ(セロテープだと取れる)で止め、カーボン紙をはさみ9Hの硬い鉛筆でトレスしていきます。

そしてトレスが全て終るといよいよ彫りです。デザインカッターという普通のカッターよりは刃が鋭角になったもので、切り紙などでも使います。輪郭の内外を彫り、余分な所は何種類かの丸刀で取り除いていきます。文字も原寸で彫ります。

文字部分の版

彫り終われば刷りです。活版印刷インクの黒をでかいローラーで石版の上で伸ばし、版に転がして付け、薄口ケント紙を被せて、バレンで刷り上げます。一画面で余分を含めて4枚刷ります。3~4日乾く間にマーカーの色見本を作ります。

刷りあがり

マーカーは、トンボ108色。呉竹90色。あかしや・日本の伝統色30色。全部で228色の水性マーカーの色見本を作ります。どんな色料画材でも色見本は作るのですが、マーカーは日が経つと変色してしまうのです。ですから少しでも前に作った色見本は役に立ちません。その都度作らなければダメなのです。

色見本を見て、どこにどの色を塗るか決めていく。

さて、刷った版画が乾くといよいよマーカーで着色です。油性のインクで刷ったところに水性のマーカーで着色ですから、きれいにのってくれます。1色で塗る場合もありますが、何色かブレンドして塗ることもしばしばです。

マーカーで着色

描き上がった画面は、別に用意された仕上がり寸法を書いた台紙に貼っていきます。表紙のタイトル文字、バックの色、マーカーで平に塗ることが不可能な壁や畳の色は色指定して、印刷で出してもらいます。


まあ、こうして原画が出来上がるのです。GOサインが出てから半年仕事でした。『十二支のお雑煮』2020年12月初版。『十二支のお節料理』から21年ぶりの揃い踏みです。

川端さん、ありがとうございました。

十二支のお節料理』『十二支のお雑煮』は、小さなお子さまから大人の方にまで、幅広く人気です。自分の干支の動物が何をしているのか、お節やお雑煮に何が入っているのか、お正月の楽しい過ごし方など、読んだあとも、親子やお友達で会話が広がります。みなさま、ぜひお楽しみください。


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