見出し画像

【編集担当が語る絵本の魅力】「世界のむかしばなし絵本」シリーズ~第Ⅰ期~

「知ってる!」と思っていただいた方もいるかもしれません。
BL出版で刊行している「世界のむかしばなし絵本」シリーズは、第Ⅰ期、Ⅱ期を合わせて、現在10作品がそろっています。

第Ⅰ期・第Ⅱ期では、ヨーロッパに伝わるむかしばなしを中心に紹介しています

楽しくて、不思議で、美しくて、おそろしい、「むかしばなし」のおもしろいところがたくさん詰まったこのシリーズですが、実は、第Ⅲ期の企画が進行中です!
世界中に伝わるむかしばなしと、胸がときめく素敵な作家さま方との融和で、次はどんな絵本ができるのか……ぜひ、楽しみにしていてくださいね!

シリーズの企画・編集を担当いただいているのは、編集者の鈴木加奈子さんです。シリーズ第Ⅲ期に向けて、鈴木さんに、第Ⅰ期・第Ⅱ期の絵本をご紹介いただきます!
今回は、シリーズ第Ⅰ期の5作品です。

鈴木加奈子
1977年、静岡生まれ。児童書出版社勤務を経て、2011年3月よりフリーの編集者に。 主な担当絵本に「世界のむかしばなし絵本」シリーズ(BL出版)、「こねこのきょうだいかぞえうた」シリーズ(石津ちひろ文 石黒亜矢子絵 BL出版)「こうさぎのえほん」シリーズ(わたりむつこ作 でくねいく絵 のら書店)など。『もりのおとぶくろ』(わたりむつこ作 でくねいく絵 のら書店)が第58回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、『金の鳥』(八百板洋子文 さかたきよこ絵 BL出版)が第25回日本絵本賞、『ぼくがふえをふいたら』(阿部海太 岩波書店)が第26回日本絵本賞を受賞。神戸市在住。

鈴木加奈子 Twitter @suzukikanako26


遠い時代、遠い国を想像する旅へ ――

各国の文化や歴史にもくわしい翻訳家と、おはなしの世界を豊かにひろげる画家がタッグを組んでつくった昔話の奥深さを、新鮮に味わえる絵本シリーズです。

「むかし、あるところに、王さまと三人の王子がいました」
たとえばこんなふうにはじまる昔話ですが、昔話は、耳できいたときに、鮮やかにイメージができ、心に残るよう、簡潔な文体で、物語にリズムをつけ、語られてきました。

人びとの願いや叡智がのせられ、くりかえし語りつがれてきた物語は生命力にあふれています。奇想天外な物語の奥底には、人間とはなにかというシンプルなメッセージがあり、人間と自然や他の生き物が、密接な関係であったことも伝わってきます。

さて、「口」で語られ、「耳」で聞かれてきた昔話は、やがて、文字でしるされるようになりました。さらに、その昔話を絵本にすると――「目」で見ることが加わります。主人公はどんな顔で、どんな服装をしているだろう?どんなところが舞台だろう?さまざまに解釈できるイメージの方向を定めていくのは難しいことでもありますが、このシリーズでは、各国の文化や歴史にもくわしい翻訳家、物語の世界を豊かにひろげる画家のみなさんが、昔話の骨格を大切にしながら、新たな命を吹き込んでくれました。

異国の風景や美しい民族衣装に彩られた摩訶不思議な世界、絵本だからこその昔話の魅力を、ぜひ味わってください。
また、このシリーズでは、だれもが知っている有名なおはなしではなく、あまりよくは知られていないかなと思われるものを中心にえらんでいます。世界中にまだまだたくさん面白い昔話があると思うと、なんだかワクワクしてきませんか?

なかなか気軽に旅ができない状況がつづいていますが、昔話を通して、遠い時代、遠い国への旅を、どうぞお楽しみください。
それでは、一冊一冊ご紹介していきましょう。


巨人の花よめ―スウェーデン・サーメのむかしばなし

菱木晃子/文 平澤朋子/絵

おはなし

ヨーロッパ北部の先住民族サーメに伝わる昔話。ある日、美しいむすめチャルミは、おそろしい巨人に見初められ、求婚されてしまいます。チャルミは、巨人から逃れようと知恵をしぼって大奮闘! トナカイたちとともに暮らす親子、彼らの生活をおびやかす巨人とのやりとりを、生き生きとダイナミックに語るのは、北欧児童文学の翻訳家の菱木晃子さん。厳しい大自然の中での人々の暮らし、ドキドキする展開を存分に味わっていただけます。

美しい雪と氷の世界、愛らしいチャルミ、大迫力の巨人を描いたのは、平澤朋子さん。北欧には度々訪れていたという平澤さんですが、さらに極寒のラップランド地方にも足を運び取材されました。風景、色鮮やかなサーメの民族衣装に、住居や生活の道具、トナカイたちなど…隅々まで説得力があります。オーロラや氷河からインスピレーションを受け描いたという、巨人の造形や色にもぜひ注目してみてくださいね。

『巨人の花よめ』より


七人のシメオン―ロシアのむかしばなし

田中友子/文 大畑いくの/絵

おはなし

ロシアに伝わる昔話。顔も背丈も、名前も同じ、でもそれぞれちがう特技をもつ七人兄弟。美しいエレーナ姫をめぐり、笛が得意な末っ子シメオンを中心に、特技を駆使して次々困難を切り抜けてゆく展開は痛快です。文は、この物語がこどもの頃大好きだったという、ロシア語翻訳家の田中友子さん。おおらかな語り口で、壮大なストーリーをぐいぐいと引っ張ります。

七人兄弟の奇想天外な物語を、異国情緒あふれるのびやかなタッチで描いたのは、大畑いくのさん。個性あふれる登場人物たちが魅力的に表現されています。ダイナミックに描かれた緑の草原、大海原、煌めく星空などは、広大なロシアの地を思わせます。天まで届く鉄の柱をたてられる、四方の果てまで見渡すことができる、夜空の星を残らず数えることができる…味わい深い絵を眺めながら、自分だったらどんな特技があったらいいかな? と、思い巡らせるのも楽しいです。

『七人のシメオン』より


まめつぶこぞうパトゥフェ―スペイン・カタルーニャのむかしばなし

宇野和美/文 ささめやゆき/絵

おはなし

スペインの中で独自の言語や文化をもつ、カタルーニャ地方の昔話。豆つぶ位小さいのに、なんでもやりたがる元気なパトゥフェ。 “ふむなよ、ふむなよ” と歌いながら、おつかいに出かけますが、牛にのみこまれてしまって、さあ大変! 文は、この物語のもつ明るさ、ほがらかさ、おおらかさに惹かれたという、スペイン語の翻訳家の宇野和美さん。はずむような心地よい文章です。原文の音を生かしながら、日本のこどもたちも口ずさみやすくと工夫されたパトゥフェの歌も愛らしいです。ぜひ声に出して歌ってみてくださいね。

絵は、ささめやゆきさん。洒脱な画風、落ち着いた色彩とユーモアあふれる表現が、物語と見事にマッチし、楽しい絵本となりました。くるくると豊かに表情が変わるパトゥフェ、心配するおかみさんやおひゃくしょうさん、のんきな牛…みんなとても愛くるしく、つい笑みがこぼれてしまいます。シックで素敵な佇まいの街を、小さなパトゥフェが元気よく歩く姿に、軽やかな気分になることまちがいありません。

『まめつぶこぞう パトゥフェ』より


金の鳥―ブルガリアのむかしばなし

八百板洋子/文 さかたきよこ/絵

おはなし

金の鳥、空飛ぶ馬、太陽のように輝く金の指輪、クルミの殻に入る花嫁衣装など…魅力的なモチーフがちりばめられたブルガリアの昔話。王様に命じられ、3人の王子が金の鳥をさがす旅にでます。末の王子は失敗しながらも不思議なおじいさんに助けられ…。文はブルガリア語翻訳家の八百板洋子さん。この物語は、八百板さんが1980年頃、ブルガリアの山あいの村で、当時82歳だった方の語りをテープレコーダーで採録したもの。八百板さんによる、語り手のリズムと、日本の子どもたちになじむことを大切にした親しみやすい文章が、心地よく響きます。

やわらかな光を放つような美しい絵を描いたのは、さかたきよこさん。変化に富んだブルガリアの地形、光と風がさわやかな風景などからもインスピレーションを受け、はっと目を引く独特な色彩や、大胆な構図を取り入れ、繊細に描き込まれています。登場人物たちは、どこか素朴で愛嬌もあり愛おしくなるほど。ページをめくるたびにうっとりと、クラシカルでかつモダンな幻想世界に浸ってしまうことでしょう。この絵本は、第25回日本絵本賞を受賞しました。

『金の鳥』より


ノロウェイの黒牛―イギリス・スコットランドのむかしばなし

なかがわちひろ/文 さとうゆうすけ/絵

おはなし

イギリス・スコットランド地方に伝わる、幻想的でロマンチックな恋物語。恐ろしい黒牛と結婚してもいいという娘のもとに、ある日、本当に黒牛が迎えにきて…。文を手がけたなかがわちひろさんは、物語の背景に思い巡らせ、その骨格はどこにあるのかを深く探っていきました。例えば、ノロウェイとはノルウェーの古語といわれる…ならばノルウェーからの侵略者と土地の娘の恋物語といえるかも…といった考察が、時に絵にもヒントを与えていきました。細部まで丁寧に磨かれた、美しく味わい深い文章です。

絵を描いたのは、この絵本がデビュー作となった、さとうゆうすけさん。ハイランドキャトルという、スコットランドに生息する牛を参考にした、どこか寂しげな黒牛、印象深い赤毛の娘が、物語の世界へ深く誘います。また、背景を抽象化し、2層のレイヤーにして人物と組み合わせるという表現も取り入れ、幻想的な雰囲気を演出しました。一筆一筆、祈りを込めるように描かれた美しい絵が、静かに胸をうちます。

『ノロウェイの黒牛』より


次回、第Ⅱ期も近日中にお届けします!
楽しみにお待ちくださいね。

世界のむかしばなし絵本シリーズ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?