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【一部公開】データサイエンティストの小説を執筆しました

どーも、消費財メーカーでデータサイエンティストをやっているウマたん(https://twitter.com/statistics1012)です。

個人活動として、スタビジというサイトYoutubeチャンネルでデータサイエンスについての発信をしています。

そんな日々を過ごす中、なんとなーくデータサイエンティストのお仕事ってイメージしにくいよなーという漠然とした思いがありました。

僕自身、統計学の修士卒で現在は事業会社サイドでデータサイエンティストとしてのお仕事をしているわけですが、学生時代は名前カッコいいけどよく分からないものというイメージがものすごくあったのを覚えています。

そんな思いから生まれたのが、この本。

入門者向けにデータサイエンティストのお仕事について分かりやすく、かつ少し臨場感ある形でお届けできればと思い執筆しました。

このNoteでは、この「俺たちひよっこデータサイエンティストが世界を変える」の冒頭を公開いたします。

Kindle出版の最低金額に設定し、かつKindle unlimitedでも読めるようにしているのでこの冒頭部分を読んで興味が湧いた方はぜひ本編を読んでみてください!

※この本の反響があれば続きを執筆する予定です。

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1.1 プロローグ:ビジネス特化データサイエンティスト小西

俺は、小西 亮一(こにしりょういち)。
東京の一等地にオフィスを構えるそれなりに名前の知れたメーカー「T社」のデジタル事業部でデータサイエンティストをしている。

企業名は有名だけど、結局俺は会社のコマ・歯車でしかない。
大学院を卒業して期待を込めて入った企業で自分なりに頑張ってきたつもりだけど、入社前に抱いていた「世の中を変えてやるぞ!」という気持ちはだんだんと薄れてきてしまっている。

小西は、じめっとした湿気に梅雨の訪れを感じながらため息をついた。
「もう6月か・・・」
梅雨の時期の出勤はつらい。小西は吹き出る汗をぬぐいながら東京駅の自社オフィスに駆け込んだ。
時刻は8時55分。
小西の会社はフレックスを導入していて社員はまばらに出社する。小西も普段はフレックスを利用して10時頃に出社するが、今日は違った。
9時から大事なミーティングがあるのだ。

なんとかタイミングよくエレベーターに乗り込むと汗を拭いながら一息つく。
「なんとか間に合いそうだ」

小走りでオフィスに入り、自席に着くとまわりの先輩に軽く挨拶をして身支度を整え9時からのミーティングへ向かう。

ピッタリ9時に会議室に入ると、そこには高山部長と茂山課長そして先輩の京野が既に座っていた。

「遅くなりすいません、おはようございます!」
小西は元気に挨拶をすると京野の隣の席についた。

高山部長はザ・たたき上げの剛腕部長。バブル入社組で厳しい出世競争を勝ち抜いてきただけあって威厳もあるが部下から恐れられている側面もある。
茂山課長はコンサル出身で頭は切れるしマネジメント力も高い。しかし能力が高いだけに社内では対抗勢力の圧力によって評価されていないのが現状だ。
小西の4つ上の先輩にあたる京野は、技術力には目を見張るものがあるが独りよがりで完全なるプレイヤータイプ。周りとの協調などありえない。

緊張の面持ちの中、高山部長が口を開いた。
「今日は君たちに話があって急遽朝早くからミーティングを入れさせてもらった。君たちも知っての通り、わが社の業績は右肩下がり。上層部から厳しいコスト削減を言い渡されている。そこで心苦しいところではあるが・・・茂山課長のグループで現在進めているAI導入のプロジェクトの中止を決定した。」
「そ、そんな・・・」
小西は突然のお達しに思わず声を出さずにはいられなかった。
茂山課長が申し訳なさそうな表情をしてこちらを見る。京野は相変わらず無表情のままだ。
AI導入プロジェクトは、茂山課長のグループで京野・小西で進めてきた大きな案件。

結果がすぐには出ないことは分かっていたものの、多くの関係者を巻き込んでまさに将来の明るい未来へ突き進もうとしていた、そんな矢先での通達であった。

小西は今までの努力がはじけてなくなる感覚に包まれた。

高山部長はそんな小西の気持ちなどお構いなしに話を進める

「今回はタイミングが悪かったが君たちの経験は必ず糧になる。また挫けずチャレンジしてくれ。私からの話は以上だ。それでは通常業務に戻ってくれ。」

小西は唯一の楽しみであった案件を取り上げられ茫然としていた。
そんな中、京野は何食わぬ顔で席に戻ると早速PCを立ち上げキーボードを打ち始めた。
「あの人、異常だろ・・・」
小西は、自席にとぼとぼ戻るとPCを立ち上げて通常業務に戻った。
データサイエンティストという仕事は、派手で輝かしい仕事に見えて意外と地味な仕事が多い。
ざっくり、仮説出し→データ抽出・集計・加工→データ分析→仮説検証→ビジネスへの活用というプロセスを経るわけだか、その中の9割は地味なデータ抽出・集計・加工なんてこともザラだ。
まあそれでもビジネスに大きなインパクトを与えることが出来た時は心底嬉しいからやめられない。
今回中止になったAIビジネス導入はまさにそんな地味な作業から導き出されたビジネスインパクトの期待できる案件だった。
確かに投資コストはかかるが数年で回収できる計算だったのだ。

小西は納得のいかない気持ちを切り替え、バッグから飲みかけのボトルコーヒーを飲み干すとPCに向き合い始めた。

1.2 プロローグ:統計学特化データサイエンティスト三原 秀人(みはらひでと)

俺は、三原 秀人(みはらひでと)。

そこそこ有名な国立S大学の博士課程で統計学を専攻している。専門は統計的因果推論※。

統計学自体は好きだが、ずっとアカデミックの世界で生きていくのに限界を感じているのも正直なところ。

博士課程に進んで今年で3年目。修士の時とは全くレベルの違う博士の世界に驚いている。

このままだと当初目指していた教授への道は遠のくばかりだ。
修士の時に書き上げた論文は個人的にも非常に自信があったので有名な論文誌に投稿したところ、簡単にリジェクトされてしまった。

妥協してレベルの低い論文誌に投稿したが、それで良かったのか。あきらめずに他の世界的有名論文誌に投稿するべきではなかったのか。

もう数年前のことだが今でも後悔を感じる時がある。
修士の時の仲間たちは、みんな大企業に就職してそれなりに稼ぎもあるし活躍もしている。

お互いに環境が変わり忙しくなり、あの時みたいに頻繁に会って話すこともなくなった。
「あー、あの時の選択はあってたのかなー」
大学の研究室から駅に向かう道の途中で三原は空を見上げながらぼやいた。
19時になろうとしているのにまだ空は若干明るい。じめっとした南風が梅雨の季節の訪れを感じさせる。

そんな時、三原のスマホがなった。
「お、めずらしい」
修士の同期「小西」からだった。

※統計的因果推論
統計的因果推論とは変数間の因果関係をデータから明らかにしようという分野。相関関係があったとしても因果関係があるとは限らず、因果関係を証明しようとすると非常に労力がかかる

1.3 プロローグ:IT特化のデータサイエンティスト 神村 隆宏(かみむらたかひろ)

俺は、神村 隆宏(かみむらたかひろ)。データ分析を専門とする「R社」でデータサイエンティストとして働いている。

R社は創業してからまだ20年しか経っていない比較的新しい企業でITバブルの波に乗って急拡大。なんと20年で1000人規模の会社に成長した。
今でもデータサイエンスの需要は衰えることを知らず日々組織が肥大化していくのをひしひしと感じる。

そんな組織の肥大化に伴って1つ1つの案件が大きくなりプロジェクトの動きがにぶくなってきている。

本来、データ分析専門の会社に入ったのは色んな案件を経験したいからであってこんなはずではなかった。

データ分析自体は好きだが、いくらなんでも経営にインパクトを与える打ち手にたどり着くまでが長すぎる。

これでは、本来経験したかったことも経験できないどころか技術力は衰えるばかり。同じ案件の資料作成・週次報告の繰り返し。

「これは本当に俺が目指したかった姿なのだろうか・・・」

神村は残業組が残る暗いオフィスの一角で高層階から眺める夜景のネオンの光をじっと見つめながら物思いにふけっていた。

そんな時、スマホが明るく光った。
「ん?誰だろう・・?」
修士の同期、小西からだった。

2.1:再会 

小西が居酒屋の暖簾をくぐると、そこにはすでに三原がいた。

「すまん、すまん、こっちから誘っておいて遅くなったわー!」
「いや大丈夫大丈夫。それにしても久しぶりだなー。」

小西が三原と会うのは大学院を卒業してから3年ぶりであった。
三原は相変わらず黒縁の丸メガネで愛嬌のある笑顔を見せる。

「もう飲み物頼んだ?」
「おう、生2つ頼んどいたわ」

「あい、お待ちー!」
ちょうど良いタイミングで生ビールが2つとお通しが来る。

「まずは、とりあえず乾杯―!」
「乾杯―!」
2人は久しぶりの再会に少し気恥ずかしさを感じながら、それを紛らわすかのように勢いでビールを口に流し込んだ。

「どうしたんだよ、急に呼び出してー。びっくりしたよ」
三原が口にビールの泡をつけながら問いかける。

「いやー、それがさー、ちょっと最近思うところあってさー。なんかふと大学院の時を思い出したら三原何してんだろうなと思って。ほら、俺らは普通にそれなりの企業に就職して既定路線進んでるけど、お前だけは皆とは違う道を選んだじゃん。それってすげえことだと思ってさ。久しぶりに話聞きたくなった。」

「なんだー、そんなことかー。結婚でもするのかと思ったよー。俺の話なら面白いことはないぜ。最初は順調に教授への道を歩んでたんだけど、なんだか最近この道あってたのかなーって思うことが多いよ。」

「あの三原でも挫折があんのか。」
「挫折ばっかりだぜ・・」

2人は昔の話に花を咲かせながら、もう一人の登場を待った。

「神村おせえなー。」
「仕事長引いてるんじゃないかー?」

ガラガラっ。冷房の効いた屋内に生暖かい風が入り込んでくる。
神村だ。

「おーー!わりぃわりぃ!帰り際に上司に声かけられちゃってさー。」
「待ってたぜー!」
ちょっと赤らんだ顔で小西と三原が神村を迎える。

「久しぶりだなー!相変わらず忙しいのか??」
「んー、まあなー!波はあるけど、最近はちょっと立て込んでて・・」
神村は席に着くと店員にレモンサワーを頼んだ。神村は生ビールがあまり好きじゃない

「それで話ってなんだ、小西??」
「小西は話なんて何もないんだってさー、俺もいきなり誘われるからビックリしたんだけど昔の話に花咲かせたかっただけらしいぜー!」
三原はだいぶ酒が入ったせいか呂律が悪く黒縁のメガネがずれてきている。
「おいおいおい、それなら先に言ってくれよ!こっちは仕事切り上げてきたんだぞー!」
神村がジェルで固めた髪を手でかきあげながら声をあらげた。

「いや、それが・・・実は3人そろってから話そうと思ってたんだが・・・」
小西が神妙な面持ちで話始める。

「ん・・・?え、やっぱなんかあったのか!?出来ちゃった結婚なのか?」
三原がビックリした表情でジョッキを下ろす。

「お前らよく聞いてくれ。今日は2人に相談があって呼んだんだ・・・」

2.2 決意の日

「お互い別々の道を歩んで2年ちょっと、それなりに素晴らしいキャリアを歩んできたと思う。正直この選択自体は間違ってなかった。だけど、やっぱりあの時みたいに自由に出来ることは少ない・・なあやっぱり挑戦してみないか?」

実は小西・三原・神村の3人は大学院時代にデータサイエンスのコンサルとしてちょっとした活動をおこなっていた。

研究室の先輩のツテでちょっとした案件をもらってきては、3人の長所を活かしながら基礎分析→モデリング→ソリューション提案までおこなっていたのだ。

ビジネス・マーケティングに強みを持つ小西と統計学の理論に強い三原とエンジニアリングに強い神村は、それぞれは荒削りながらも3人そろうと素晴らしい相乗効果を生むことができた。

卒業間際にはそこそこ大きな案件を決めたことで自信を持ち始め、内定先を蹴ってそのままこれを事業として成り立たせていこうという話も出ていた。

しかし、3人には勇気がなかった。
それもそのはず、日本では依然、新卒採用の強さというのは効力を発揮していて中途半端な覚悟で起業して数年を棒に振った後、行く宛のない人たちをたくさん見てきた。

3人で積み上げたデータサイエンスの活動は思い出の片隅にしまい、それぞれの道を歩むことになったのであった。

それから2年とちょっとが経ち、今ここで小西の口から「もう1回挑戦してみないか」という言葉が出たのである。

具体的な言葉はなくとも、三原と神村には挑戦という言葉の意味が分かっていた。

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小西、三原、神村のデータサイエンティストとしての挑戦を分かりやすく書いています!

ぜひぜひ本編読んでみてくださいねー!



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