家族で外を歩くために

 いよいよひなちゃんが外を歩けるようになった。家の中ではだいぶ前から走り回っていたのだが、靴を履いて公園を歩き回るようになったと思ったらもうあっという間だ。
 初めての外出は家から近所のスーパーまで歩いたらしい。らしい、というのも僕が出張中の出来事で、残念ながらそれに立ち会えなかったからだ。電話越しにそれを聞いたときはびっくりしたものだ。
その時はヘルパーさんと3人で外出したそうだが、これからずっとヘルパーが一緒というわけにもいかない。その日から、家族3人で安全に歩くための試行錯誤が始まった。
 まず、歩く時に手をつなぐというのは大前提なのだが、それだけでは心もとない。見えるもの全てに気を取られると言っても過言ではないひなちゃんのことだ。何かに興味を惹かれてすぐに手を話してしまう。そこで以前友人からもらったリード付きのリュックサックを使うことにした。
ひなちゃんが背負えるサイズのリュックに1メートルぐらいの紐がついており、その先を握っていれば万が一手が離れてもリードの長さ以上遠くにはいかないというものだ。ひなちゃんには申し訳ないが、まるで犬を散歩しているような感覚になる。
おまけに万が一そのリードから手が離れてしまった時のために、リュックに鈴までつけたものだから犬の散歩感が一層際立ってしまっているわけだ。
 まあ歩くとリンリン鈴が鳴るのは、ひなちゃんの音という感じがしてそれはそれでなかなかいいものだ。鈴も、いくつかある中から良い音がするものを妻が選んでくれた。それが100均の鈴であるというのはひなちゃんには当面内緒なのだが。
 準備が整ったところで、今度は我々がひなちゃんを連れて歩く感覚に慣れる必要がある。そこで登場するのが妻がつわりの時にもよく利用した地下街歩きだ。
地下街は車や自転車が来ない上に大半の道に点字ブロックがある。外を歩いて感じたことだが、ひなちゃんのことを気にしながら周囲の状況にも意識を向けるというのはなかなか神経を使う作業だ。それならばまずは安全な道で3人で歩く感覚に慣れようというところから始まった。
 ひなちゃんはというと、地下街だろうが外だろうがどこでも本当に楽しそうに歩いている。自分の足で歩けるというのが嬉しいのだろう、終始ご機嫌だ。
この前なんて、機嫌よく歩かせていたら地下鉄1駅分歩き切ってしまった。大人でも歩いて15分ぐらいかかる道のりを、30分ぐらいかけてゆっくり歩いた。1歳でこんなに歩かせてもいいものかとこちらが不安になるぐらいだ。
その後は歩いてお腹が空いたのかお菓子をバクバク食べ、満たされるとスコンと寝てしまった。わかりやすいことこの上ない。
 最近では外を歩くことも増えた。大阪はびっくりするぐらい自転車が多い。一人で歩いていても時々ぶつかってしまうことがある。動いているもの、留めているもの問わず。
車というよりもそちらの方が常に気にかけていなければならない。ひなちゃんに鈴をつけているというのは、我々のみならず自転車に乗っている人たちへも居場所を知らせることができるので一石二鳥、なのかもしれない。
 以前同じ視覚障害の先輩ママにお話を聞いた時に、
「子供にリードを付けているのがかわいそう」
と言われた経験を教えてくれた。その時に、
「かわいそうもなにも子供の命を守るのが最優先」
と思ったそうだ。
本当にその通りだと思う。子供の自由以前に安全を守れなければ本末転倒だ。
 ひなちゃんが動けるようになればなるほど、我々が視覚障害だからこそのある意味「制限」をかけなければならない部分が出てくるだろう。周囲のサポートを全力で借りながら、できるだけひなちゃんが自由に走り回れる環境づくりをまずは頑張ろうと思う。

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