ひなちゃん居酒屋デビュー

 タイトルだけ見ると、20年も早いんじゃないかと言われそうだが、ひなちゃんとの3人でのお出かけは唐突に始まった。
その日、東京から遊びに来ていた我々夫婦の友人と久しぶりにご飯を食べに行くことになり、居酒屋に出かけた。出かける、と言ってもひなちゃんを連れて外出するのはほぼ初めてだ。
近所のスーパーに一緒に買い物に行くことは2・3回あったが、当然1時間以内に帰ってきていたし、何より歩いて5分の距離だ。
それが初めて電車に乗って友達も一緒で、しかも居酒屋というひなちゃんに取っては場違いともいえるお出かけを、今考えたら我ながらよくチャレンジをしたものだ。
 しかし我々も、何も準備していなかったというわけではない。まず予約時に友達に頼んで、座敷で個室の席を確保してもらった。これで最悪泣き出しても、他のお客さんに迷惑をかけることはほぼない。
次に持ち物だ。我々はベビーカーは使っていないため、だっこひもでひなちゃんを連れて行くことになる。そこは二人で分担して、妻がひなちゃんのだっこ担当、僕が3人分の荷物を持つことにした。
荷物といってもこれまでの財布とスマホ、白杖さえ持っていればいいというわけにはいかない。おむつとおしりふきはもちろん、確実に2時間以上のお出かけとなるため、哺乳瓶と粉ミルクも持参した。
ここにきて、赤ちゃんとのお出かけは準備が本当に大事であることを痛感する。忘れたらコンビニで調達すればいいやが通用しない。粉ミルクなんて、ドラッグストアでないと購入できないのだ。
こうした視点も、ひなちゃんがやってきて初めて持つようになった。赤ちゃんを連れて気軽に外出、という環境がまだまだ整っていないという現実がそこにはある。
 話を戻そう。今回授乳は1回ということで、粉ミルクを入れた哺乳瓶と、別に魔法瓶にお湯を入れて持参した。その場で目盛りを見ながらお湯の量を調節できない我々に取って、事前に1回分の量を測って入れておくことが重要だ。こうしておけばひなちゃんが泣きだした時に、さっと水稲から哺乳瓶にあるだけのお湯を注ぐだけでミルクを作ることができる。
あとは哺乳瓶のミルクをどうやって適温に冷やすか。保冷材を持って行ってもよかったのだが、ここはお店にお願いをして氷をもらうことにした。
 外出前にひなちゃんの授乳とおむつ替えを済ませてから、外行きの服に着替えさせる。そんな時に限って泣き出したりなかなかミルクを飲まなかったりで、早速待ち合わせに15分遅刻してしまった。こんな時に快く許してもらえることが本当に救われる。
もっといろんなことを想定して、前もって準備しておかないといけないことは重々承知している。それでもどうしても思い通りにいかないことがある。子育て経験のある方ならきっと大いに共感してくれるはずだ。
 居酒屋では久しぶりに飲んで食べてあっという間に時間が過ぎた。ひなちゃんは、最初こそ少しぐずったが、かわるがわる我々でだっこしていたらすやすやと寝てくれていた。
ひなちゃんが生まれてからというもの、居酒屋はもちろん外食をするということがなかった。赤ちゃんがいるなら当然と言われそうだが、元来外に出るのが特別好きな二人だ。ずっと外食がしたいねと話していた。2ヶ月ぶりにようやくそれがかなったのだ。
 準備していたミルクの出番もやってきた。事情を説明すると、氷だけでなく哺乳瓶がすっぽり入るデカンタグラスまで用意してくれたスタッフの方には感謝しかない。
 ひなちゃんとの初めての居酒屋チャレンジは我々に取って大きな一歩だった。遅刻しても快く受け入れてくれた友人、氷やグラスを貸してくれたお店の人、そして電車でひなちゃんをだっこしている我々を見て座席を譲ってくれた人など、本当に周囲の誰かのの優しさが心にしみた。
赤ちゃんと気軽に外出できる環境が整っていないと上で書いたが、それ以上にいろんな人の心遣いがありがたかった。
これからひなちゃんを連れて外にもどんどん出て行くことになるだろう。そうすると、予想もしていなかったハプニングに見舞われることだらけだ。そんな時、自分たちだけで解決しようとせずに誰かの助けを借りることを頭に置いておくだけで、幾分気持ちも楽になる。
電車で急に泣き出したら…外食中に泣き止まなくなったら…外でけがをさせたら…など心配しだしたら切りがない。迷惑をかけることもあると思うが、その一方で助けてくれる人もいるはずだ。
我々自身がいつでもどこでも躊躇なく誰かに頼ることができる姿勢を、常に持ち続けたいと思った。

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