まさかの日帰り出張

 今するか、というタイミングでやらかすのがひなちゃんである。ひなちゃんが生まれてから、いつも冗談交じりでママと話していることだ。
我々がゆっくりご飯を食べようとしたタイミングで起きて泣き出したり、服を着替えた直後に食べ物をこぼしたり、電車に乗った瞬間にお腹が空いたと泣き出してみたり…。
おかげで、我々の想定外のことに対応する力もだいぶ鍛えられてきたと思う。
しかし今回のひなちゃんの入院は、我々の予想を超えてきた。しかも、今?というタイミングで。
 僕が二泊三日の出張に出かける朝。その日になってもひなちゃんの熱は下がっていなかった。ひなちゃんが発熱してから、既に三日目の朝を迎えていた。
「今日も病院に連れて行ってくる」
というママに
「ほんとに大変やけど、ひなちゃんをお願いな」
という言葉を掛けることしかできなかった。
仕事を誰かに代わってもらえないかを、全く考えなかったわけではない。ただ、二週間に一度は熱を出すひなちゃんである。その都度代わってもらうわけにもいかないという想いもあり、心配しながらも家を出た。
 第一報は、新幹線で東京に向かっている時だった。ママからの着信を見た瞬間に、これは何か起きたなと思った。
「入院ができる病院に行くことになった。
そこで検査をしてみないとどうなるかはわからない」
ママの声は少し緊張していた。
「わかった。何かあったらいつでも連絡ちょうだい」
そんなやり取りをして電話を切った。
 仕事中も終始落ち着かなかった。結果が悪かったらひなちゃんはどうなるのだろう?もし入院になったら何をするべきなんだろうか?などと、疑問ばかりが浮かんでくる。
仕事上、スマホをなかなか確認できないこともあり、悶々と時間を過ごした。
そんな中で、僕の中で一つの結論にたどり着いた。入院になったらすぐに帰ろう。今更何ができるかはわからないけれど…。
 夕方近くになってもママからの連絡はなかった。検査結果が問題なければ、病院からもすぐに帰宅し、連絡をくれているはずだ。その時点で、十中八九結果が思わしくなかったのだろうと悟った。
 大阪に帰るために、翌日以降の仕事の調整を始めた頃、ママからのLineがはいった。
「ひなちゃん入院になった」
やっぱりか。
すぐに電話をすると、血液検査の結果が悪く入院になったこと、点滴で水分と栄養、抗生物質を入れていること、入院中は付き添いで病院に泊まり込みになることなどを聞いた。
僕は、今日の仕事が終わったらすぐに大阪に戻ることを伝えた。
「友達に入院に必要な荷物も持ってきてもらったから大丈夫」
とママは言ったが、荷物の受け渡しだけでも何かできることはあるだろうと、半ば強引に帰ることを伝えて電話を切ったのだった。
 会社から出てみると外は大雨で、駅に行くとJRも新幹線も止まっていた。こんな時に…とは思ったが、急いで帰ったところで明日の面会時間までは何もできないのだ。
はやる気持ちを抑えて夕食を食べたりしている間に、新幹線は運転を再開し、無事大阪に戻ることができたのだった。
(続く)

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