親バカは今に始まったことではない

 ひなちゃんとの意思疎通が以前よりもできるようになってきた。ひなちゃんの声のレパートリーが豊富になったことや、動きで表現できることが増えたからだ。
要望があったら泣いて、満足したら笑ってというところからずいぶんと成長したものだ。
 まず「ひなちゃーん」と呼びかけると、気分が乗っていれば「うー」とか「おー」と声を出して反応してくれるようになった。最も機嫌が良かった時なんて「うぇーい」と返事をしたものだから、ついつい「パリピか!」とつっこみたくなったほどだ。
ただ、まだ確実に返事をしてくれるわけではない。あくまでひなちゃんの気分が乗っている時限定だ。親バカ補正がかかっても現状7割ぐらいといった成功率だろうか。
 逆に返事をしない時は気をつけた方がいい。たいていたたんだ洗濯物を盛大に散らかしている時か、机の下でおしりふきを大量に引っ張り出している時だ。
あえて返事をせずに気配を消しているのではないかと思う時さえある。
先日ひなちゃんを探して家中を呼びながら歩いていた時だ。ある部屋の一角を通り過ぎた瞬間に後ろから「キャハハハ」というひなちゃんの笑い声が聞こえた。まるで「ばれなかったぜ」と言わんばかりに。
ひなちゃんにそうした意図があったかどうかはわからないが、こちらが思う以上に日々賢くなっているのはたしかだ。
 喜びも大きな声で表現してくれるようになった。ひなちゃんが好きな「ご飯」や「お風呂」、「お出かけ」という言葉はどうやらもう認識しているようで、「ご飯しようか」などというと「おー!!!」などと気合の入った返事なのか奇声なのかよくわからない声が返ってくる。
お風呂の時なんて、お湯が入ったことを知らせる給湯器のメロディーを聴くだけで、「うー!おー!」と声を上げながら、ものすごいスピードのはいはいでお風呂に向かって行く。どうやらひなちゃんの中で自分以外の人が一番風呂をするなんて許されないことのようだ。
 そしてここ2・3日の間にできるようになったことがもう一つある。ひなちゃんとおもちゃで遊びながら、一つを指さして「これちょうだい」と言って手のひらを上に向けると、そこにおもちゃを置いてくれるようになったのだ。ママが最初に発見したのだが、余りに驚いて何度も繰り返していると、とうとうおもちゃを床に捨ててひなちゃんが一人で寝室へ行ってしまった。まるで「何回もしつこいねん」と愛想を尽かしたみたいに。
 こんな風にひなちゃんの最近の成長は特に目覚ましく、驚きの連続だ。ただ、できることが増えるというのは手放しで喜べる事ばかりではない。
机の上に置いてあるカップを掴んで、お茶屋牛乳を3回連続で床にまき散らした時なんて、イライラして発狂しそうになった。ひなちゃんの手の届くところに、反省もせずに何度もカップを置いていた自分が悪いことは百も二百も承知である。
ただその瞬間は理屈ではなく、言葉を発するとひなちゃんに当たってしまいそうだったので、ひとまず無言でだっこして別の部屋に連れて行き、牛乳まみれの床を何度も拭いた。
その時自分はいったいどんな顔をしていたのだろうか。見えているひなちゃんには申し訳ないけれど想像したくないことだ。
 どれもいい思い出だ、と言えるようになるまでにはもう少し時間がかかりそうだが、こんなにも日々成長するひなちゃんに寄り添える時間は限られている。終わりを意識しない人が今を大切にはできない。ひなちゃんとの時間だけでなく自分自身の人生に置いても常に心に留めておきたいことだ。
そんなひなちゃんは来月もう1歳の誕生日を迎えようとしている。

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