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親になるってこういうことか

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これは全盲の夫婦が挑む初めての子育て記録です。 夫婦それぞれの視点で3人の日々を描きます。 今回のシリーズはわが子に出会えるまでの約9ヶ月間。 まだ見ぬわが子に思いを馳せて・・・
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#全盲夫婦

コラム2 『10ヶ月ぐらい座席を譲ってもらったっていいじゃないか』

 外出が増えると、電車やバスを利用するシーンが多くなった。妻が妊娠するまでは、少し乗るだけなら立ったままでいいかと思うことが多かったのだが、例え5分程度であっても座席に座れることがありがたいと思うようになった。正確には妻を座らせたいと思うようになった。
ただ、なかなか難しいのが車内で空いている座席を探すこと。ガラガラならまだしも、少し離れたところに一席だけ空いているなんていう時には大変もどかしい。

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10 二人の時間 / はるか

 結局生むまで胃のむかつきや吐き気、嘔吐、だるさといったつわり症状は続いた。さらに後期にはそれに加え腰や骨盤の痛み、息苦しさなどの症状も加わった。まったく、妊娠期特有の症状フルコースである。そんなものはじめからオーダーしたつもりなどなかったのだが。
それでも嘔吐にさいなまれる日やほとんど食べられない日は五日から六日に一日と、軽いジャブ程度になった。妊娠初期から中期にかけての眠れないほどのボディーブ

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9 二人の時間 / ぐっち

9 二人の時間 / ぐっち

 1泊2日で東京まで無事に行けたことに味を占めた我々は、大阪に戻ってからもほぼ毎日短い外出をするようになった。時々調子が悪い日もあったが、一日一度は意識して外に出るようにしていた。
ただ、妊娠中の妻にとって暑さは大敵だ。毎日35度を超える猛暑となっては駅まで歩くのも一苦労である。そんな時我々が編み出したのが梅田の地下街散歩である。
散歩といえば外の公園などを歩くイメージだが、我々のそれは少し違う。

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【コラム】 三つのおきて

 4月に入った頃から妻の状態も少しずつ安定し、一緒に外出ができるようになっていった。調子のいい日には電車やバスに乗ってカフェにも出かけられるようになった。
ただ、妊娠期間中の妻との外出には決して破ってはならない『おきて』があった。今回はそれを紹介したい。

その1 妻を空腹にしてはいけない
つわりで辛いのは食べ過ぎともう一つ空腹だ。空腹状態になると胃に食べ物が入っていないのに吐き気が襲ってくる。胃

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6 あきらめた先に見えたこと / ぐっち

 妻を近くの大きな病院に送り届けた帰り道、何とも言えない抜け殻のような気持ちでふらふらと歩いて帰った。たった10分前までは入院なんて想像もしていなかった。今日も栄養剤の点滴をしてもらって帰るものだとばかりに考えていた。
看護師さんが入院しましょうかと言ってからの流れはもうあっという間だった。あれよあれよという間に看護師さんは妻を連れて病棟へ消えてしまった。
「コロナで今は面会はできませんので」

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5 あきらめた先に見えたこと / はるか

 13週中盤からはとうとう病院に入院となった。妊娠初期よりも4キロ体重は落ちた(体感的にはもっと減っていてもよいものだが)、肝機能も悪化した。
病院では自分自身と、いるのかいないのかもわからないような小さな命を点滴でつないだ。1日に何度も取り換えられる500ミリリットルの点滴。その液体の入ったプニプニとした袋を時折指でつんつん押しながら、このおかげで生きていられるのだなと医療の偉大さに感心した。

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