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波の上ビーチと沖縄返還前後の話

以前、沖縄にハマっていた。
というより沖縄に日常の逃避の目的地を見出していた。
全く沖縄に対して失礼な話だが、沖縄の歴史や風俗、文化を毎日のように調べていたから、たぶん「沖縄病」だったのだろう。

勝連城跡(もともと城跡に興味ないのにもかかわらず沖縄本島グスク跡はほとんど見て廻った)

1年間に東京から沖縄に4回ペースで行っていたときは、金曜の仕事後に羽田から那覇に行って、日曜夜に那覇から羽田に帰ってくるということも何回かあった。
ただ沖縄でも弾丸旅行が無理だったのは八重山地方へ行くときで、連休と有給休暇を利用するなどしたが、それでもそのうち数日は那覇に滞在することにしていた。
予定が本島だけの場合は、国際通りの近くの宿を拠点とし(正確に言えばゆいレール駅近辺の宿)、バイクをレンタルし沖縄本島を廻るのである。
那覇はあくまで拠点であり、いろいろな場所を走ったり、歩きまわったりしていたが、拠点の那覇についてはあまり知らなかった。そのうちに那覇自体のことももうちょっと知りたくなってきていた。
ちなみに国際通りは最初に沖縄本島に行って以来、全く行っていない。

那覇の旧市街は、昔は島(浮島)であり、その後の埋め立てによって現在の町の姿ができあがったということを知った。
陸地とこの島との間には幅500メートル弱という結構大きな海峡が存在したらしい。現在、その境界が水路に姿を変えている。現在の久茂地川である。
海岸線のうち、北東端は波の上ビーチ近くの「波の上宮」にあった。
国際通りから一本入った道に浮島通りというところもある。

ある年の11月下旬の夕に波の上ビーチの堤防の上に座り、ずっと海を見ていた。
その日は旅行の最終日で20時過ぎの飛行機に乗るために暇つぶしをしていたのだった。

波の上ビーチ近辺は公園になっていて、ホームレスの人たちのテントも結構ある。ちなみに波の上ビーチとは、那覇市で唯一のビーチ(しかも人工)であり、海の上に道路も通っているし、海水の色も含めて沖縄の海という感じは全くしない

波の上ビーチ


沖縄のホームレスは冬に凍死する危険がないだけでもいいな、もしホームレスなったら沖縄に来ようとか思いながら海を見ていると、60代中頃くらいのオジサンが話しかけてきた。髪は長めでボサボサだったがホームレスではないのはすぐわかった。
旅行の終わりにいつも感じる淋しく虚しいような気分もあって、誰かと話をしたい気分では無かった。
  
「旅人? ナイチャーでしょ?」
この時点で少し怪しいと思ったが、それは的中していた。
まず「たびびと?」って聞いてくるかな....。
ナイチャーとは内地の人という意味である。

その人はいきなり僕の隣に座ってきた。
これは….と思っていると予想通り、男の人が好きな人であった。
これまでもオートバイでツーリングしていると、旅先で何回かこういう人達と出会うことがあった。
こんなときはいつも逃げてしまうのだが、この日は旅行最終日で疲れていたのか、防波堤から立つ気力がなかった。

「顔見たらウチナーかどうかわかるよ。ちょっとキミは違うかな.....」
「何処廻ってきたの?」
「宮古島です」「宮古か。あそこは底なしだよな」(オトーリ(宮古人の酒の飲み方)のことか?)

ここで、八重山批判に行かなければいいがと思ったが、そうはならなかった。

一方的に話しかけられ続けて無視するわけにもいかなくなってきたので、なんとなく喋り始めた。
その人は沖縄出身で、以前、社会科の教師をしていたが定年になって波の上近辺の居酒屋でアルバイトをしながら暮らしているという。
最初は適当に聞いていた話も、その人の話の情報の豊富さにいつのまにか聞き入ってしまっていた。
沖縄返還の頃(1970年代前半)、Aサイン、中城(なかぐすく)の裏の超巨大廃墟や730の話など。
実際にその時代を体験してきた人にしか語れないような話で、人からの話で直に聞きたかったものだった。 

ただ、困ったことに話を真剣に聞き始めると手を握ってくるのだった。

「いや~ちょっと….やめてください~」
オジサン:「ちょっとだけいいじゃない」
「そういう趣味ないんですよ…...さっきから言ってますけど……」

そんな会話をしながら手を離しても、しばらくするとまた手を握ってくる。それを振りほどいてまた話を続けるの繰り返し。
それでもやはり話は興味深く「それからどうなったんですか?」などと聞くと、「教えるから、その代わり手を握っちゃうよ」 と満面の笑顔で言ってくる。
そういった感じで、また手を握ってくるのだった。

波の上ビーチの堤防

そのうち、オジサンがアルバイトに出かける時間になったらしく、

オジサン:「この続きを話すから、飲みに来てよ」
「今日帰るから(今日帰らなくても)行かないですよ・・・」

ふとオジサンの顔を見ると、昔の沖縄の話をしているときはゆるんだ顔じゃなくて真剣な顔つきになっているのに気がついた。
悪い人ではないんだけどな…..と思って話を聞いていたら、手を握るのをあきらめたようで、普通の会話になっていた。

オジサンがアルバイトに出掛けていく後ろ姿が波の上ビーチの南に広がる昔の遊郭の名残のような町並みに消えていくのを見送った。

陽は落ちていく。

那覇空港

波の上ビーチでは20人くらいの女子高生たちが絶叫しながら鬼ごっこみたいなことをして遊んでいた。 


(終わり)

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