「兄」ではない貴方に

最近よく家族について考える。私個人の家族についてもそうだけれど、「家族」という概念に関しても。その概念を取り巻いている現状も含めて。
私はここ一年くらい「兄」によく家族の話を聞いてもらっている。私の家族環境はほんの少し兄の家族環境にも似ているから、また、兄は話を聞くのが上手いから。兄は本当に素敵な人だと会うたびに思う。

この文章でつづる「兄」は私の実の兄、つまりは血縁関係的、物理的な兄ではない。いわば「精神的兄」の話だ。(誤解が生じないように触れておくが、兄的な存在であることは本人にも伝えているので、知っている。)

兄はセンスがいい。
私と兄は何度かショッピングに行った。試着をしては兄に「これはどう?」と聞くことに今でこそ躊躇いはほとんどないけれど、最初に二人で服を買いに行った時には、私に試着の経験がなかったので、めちゃくちゃ抵抗して、押しが強く、口の上手い兄に押し切られるような形で試着をしたのを覚えている。恥ずかしがって、ぷるぷると緊張する私にたくさん褒め言葉をかけて、たっぷり一日かけて服を選んでくれた。その節は本当にありがとう、兄。貴方のおかげで今はちゃんと自分でも試着するようになった。

兄は顔がいい。
多分、写真を見た人のほとんど、少なくとも7割は兄をかっこいいというはずだ。欲目とかではなく、本当に事実そう思うし、私の周りの友人はそうだった。にかっと笑った笑顔はとても愛おしげで、ハンサムで、そりゃモテるよな(察し)とか思ったりする。好きな事について目をキラキラさせて話す姿は子どもみたいで、時々本当に年上なのか疑いたくなってしまう。絶対7歳も違わない、だってあんまりにも子どもみたいだ。でも、なんだかつられて笑ってしまうような無邪気さに釣られて、私はいつも救われるのだ。その割に真面目な事を考えていたり、話す時の目は真剣で、「二枚目」だなと感じさせる。じわりとしみ出してくるような深みはうっかりすると虜になる。ちゃらんぽらんに見えて、結構根は太い。見た目と中身のギャップが何気ないタイミングで来るものだから、不意をつかれるのだ。……なんていうか、これだからイケメンはずるい。顔面偏差値よこせ、こら。

兄は話をするのが上手い。
私は兄の言葉が大好きで、兄の話はいくらでも聞いていられるなと思うし、同時に兄はちゃんと話を聞いてくれるので、兄とはいっぱい話したいなといつも思ってしまう。兄は共感する、寄り添う話し方が上手で、例えば愚痴を話したりしていても「○○は確かに正しいけど、それとは別にあなたは嫌だったよね」みたいな言い回しをする。その事実と感情を切り取って、別々のものとして、私に渡しなおしてくれるところを尊敬していて、有難いと感じる。ただご機嫌取りのように感情に寄り添うだけじゃなく、ちゃんと見るべきものに視点を充てられる兄のあり方を、秘かに「大人」だとずっと私は思ってる。子どもっぽいと普段あれほど思わせられるのに、そういう真剣な話をする時にはいつも兄はちゃんと「大人」だ。そんな兄だからいっぱい時間を取ってしまって申し訳ないと思いつつ、甘えている。いつも電話してくれて、遊びにいって、話をきいてくれてありがとう。

恋愛に関わる兄が好きだ、と思う。
ここ最近、半年くらいの間、私と兄の間には恋愛話がよく飛び交っている。その理由は大きく言えば私のせいで、私が今の恋人さんに片思いをしてた時から兄に相談をしていたからだし、付き合った後も何かと兄に「きいて!!」をしているからでもある。恋人さんは兄と私の共通の知り合いでもあって、兄に相談するのは実は何かと都合がいい。
私と恋人さんは本当に正反対の性格をしていることが目に見えて分かる生き方をしていて、そんな私達が付き合うことになった時、流石の兄もびっくりしていた。(もちろん、びっくりするより先に祝ってはくれた) 
恋人さんには私から告白して一度振られていて、恋人さんに改めて呼び出された日、私はちょうど兄と映画を見に行っていた。当時の好きな人から「今日会えないか」とメッセージをもらってパニックになっている私が「どうしよう!!」と兄に泣きついたのは一種の黒歴史だ。恋人さんとの待ち合わせに行く電車に乗りたがらない私に「○○(恋人さんの名前)がかわいそうだから行ってあげて。…まあ、最終的にはあなたが決めたらいいけどね」と背中を押してくれたのも兄。あの一言がなかったら、約束をバックレて、私と恋人さんの縁は多分切れている。
恋人さんへの恋心を自覚した時に泣きついたのも兄だった。泣きながら「絶対に無理です、好きになるなんて馬鹿みたい!!」と自己肯定感が地獄の底にいた私を引っ張り上げたのも兄である。つい先日、恋人さんが帰国の予定を遅らせると言い出して、大喧嘩した時に泣きついたのも兄。

あれ、書いてて気づいたけど、本当に私やばい人だな…。兄、ごめん…。
…だから、その、あの、私は兄に何度も何度も助けられている。

兄は最近同棲を始めた。とても楽しそうな兄の話に私は正直とても羨ましくなる。多分、ちょっと過剰なほどに。なぜなら私と恋人さんは現在進行形で遠距離だからだ。4カ月半会ってない。(3月の終わりに帰国して、一旦遠距離が終わるが、今度は国内での遠距離が続く。…時差がなくなるだけまだまし。)
兄は好きな人、つまり兄の恋人さんと暮らすのが本当に楽しそうだ。こんなに一緒にいられていいのかと思うほど一緒にいられるから、それがとても嬉しいらしい。自分では気づいてないと思うけど、兄、一回鏡見た方がいいよ、めっちゃにやけてるよ、貴方。幸せ物質出てる感、かなり強い。…羨ましい話。ずるい。
それに兄はそれだけではなく、料理をするのも楽しいのだと笑った。実家では出来なかったことが出来るのもいいと言った。いいなと思う。とても楽しそうで。
兄は私と少しだけ家族関係の形が似ている。だから、あんまり家族についての感覚が良いものではない話を聞いていた。でも、兄は最近よく前向きに家族の話、今後の話をする。それがすごく嬉しいし、羨ましい。ちょっとおこがましい主張だけれど、自分とよく似ている性質を持つ兄が「家族」のあり方を前向きに構築している事に、私にも出来るのではないかと秘かな希望が湧き出てくるのだ。兄のように私も少しだけ前向きになりたくなる。
だから、兄が新しく構築している恋人さんとの暮らしが上手くいくことは私にとっても希望で、兄が幸せに生きていると本当に嬉しくて、なんだか自分も幸せな気分になる。兄が末永く兄の愛する人と幸せであってほしいと本気で願っている。

最後に家族の話。元々これが書きたかった。これだけを書くには心が動かなくて、ここまでの文章を綴っている。

私の家族関係は少なくともいい方とは言えなかった。私もその一端を担っている。幼い時から息苦しさをどこか感じていて、自分を守ってくれる誰かをずっと求めていた。だから、兄が欲しかった。昔から、今の今までずっと。
私は15歳の時、高校進学で家を出て、「家族」を一度捨てた。
19歳、大学一年のオンライン授業の一年、私は実家で過ごしていた。二年にあがる春にやっと上京しようとしていた時、父が笑って冗談を言った。
「まあ、お前は(出ていったから)もううちの子じゃないからな」と。
冗談だ。あくまで。父的には「好きにやれよ」くらいの意味だったのかもしれない。でも。私はその言葉にひどく傷ついて、今でもどこか恐れを抱いている。
『何か一つ行いを間違えば、私は自分の居場所を失うのではないか、大切な誰かにいらないと言われるんじゃないか』と。

兄は私が初めてこの話をした相手でもある。「それは悲しかったなあ…」とただ共感してくれた兄に、ここに味方がいると思ったのを覚えている。ある意味それは孤独を感じていた私にとって都合が良かったからでもある。こんな風に誰かに味方をしてほしかった。お父さんはああいう人だから仕方ない、ああいう言い方しかできないだけで実際には私を心配しているし、きっと本当に縁を切るという意味での「うちの子じゃない」なんてことはない。
でも。私は悲しかった。そのことを認めてくれただけで本当に救われた。そして、本当はそのあり方を家族に取ってほしかった。両親は変わってくれない、妹は幼い。だから、別の誰か、それはきっとずっと求めていた「兄」に、存在しえない「兄」に言ってほしかったのだ。
だから。
私はそんな振る舞いをした貴方を「兄」だと慕っているのかもしれないと、二年越しに実家に帰って、ほんの少し自分の家族への呪いが解けた今、そう思う。

ここまで散々「兄」と書いて来たけれど、貴方は結局私の兄ではない。だって、兄は存在しないのだ。私の家族は父、母、妹、そして私の四人に過ぎない。貴方は私の「友人」だ。
「兄」ではない貴方は「兄」ではなくても、変わらず素敵だ。「友人」の貴方だって、私は本当に好きだと思う。だって、貴方は本当は妹でもなんでもない、ただの「私」に寄り添ってくれた人だ。「兄」ではないけれど、私の大切な友人であることはずっと変わらない事実としてそこにある。だから、家族について考える今、「兄」ではない貴方について一度考えたのだと思う。貴方の誕生日も近い事だし。(若干こじつけ笑 でも、きっと公開日は貴方の誕生日だ。)

でも、ちょっとだけ思うとしたら、もしどこかの世界線で貴方が兄だったら、私はとても嬉しかったと思う。こんな素敵な人は世界にもそう多くないと思うから。そういう意味では一人の人間として、貴方みたいな人が自分の兄であってほしいんだなと思っていたりする。でも、兄だったら兄だったで、多分喧嘩してそうな気もするし、こんなに遊びに行ったり、ちゃんと話が出来たりもきっとしてない。反抗期には絶対悪口言ってる自信もあるから、やっぱり私と貴方は友達がいい。

さて。誕生日おめでとう。
兄になってほしいと思うほど素敵な貴方が、一人の人間として送る人生が本当に豊かで愛おしいものでありますように。貴方が貴方の愛する人といる時間が幸せでありますように。
貴方の人生のほんの一部にしか関わっていない「友人」の私ながら、そんなことを祈っています。
いつもありがとう。心からの愛をこめて。また話せる日を本当に楽しみにしています。

追伸:兄、私はただいま絶賛就活中なんで、相談に乗ってほしいです。他己分析手伝って…。お礼はちゃんとしますから!!迷える子羊、ならぬ就活生を助けて下さい…。
あと、サムネのイラストは何となくあなたのイメージです。かわいくない?笑 中身は真面目に書いたけど、せめて一瞬初めに目に着くところにはチャーミングさを置いておきたかった。ながくなってごめんね。


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